ウディ・アレン初のドラマはモヤモヤ感満載「ウディ・アレンの6つの危ない物語」

あのウディ・アレンがドラマを撮る。
しかもアマゾンの配信専用に。
そんなニュースが流れたのが去年九月のこと。

アカデミー賞をスルーして地元のジャズクラブで演奏しちゃう尖ったあのアレンが、小さい子にいたずらしたと告訴されたあのアレンがドラマですよ、ドラマ。

気づけば2017年になり、何となくアマゾンビデオを覗いてみるとラインナップとして配信開始されてた。
話題になってなさすぎ。



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六つの危機

ウディ・アレン初のドラマ「ウディ・アレンの6つの危ない物語(CRISIS IN SIX SCENES)」
あらすじはこんな感じ。

舞台は、1960年代のアメリカ。

アレン、今回は売れない元小説家を演じる。
今は、コピーライターとして生活。
相変わらずウザい。

奥さんは、カウンセラーとして夫婦の悩みを聞きながら、週に一度知り合いの奥様連中と読書会を開くのが唯一の楽しみ。

あるとき、アレンの家に何者かが侵入。
物音がするので降りてみると、そこには奥さんの知り合いの娘。
演じるのは、「ハンナ・モンタナ」でお馴染みマイリー・サイラス。

ところがこの娘、打倒資本主義を叫び爆弾を仕掛ける過激派。
脱獄して現在、逃亡犯。
シークレットアイドルをテロリスト役とは、皮肉なキャスティング。

アレンは猛反対するが、奥さんは聴く耳持たず娘をかくまうことに。
ここから元タイトル「CRISIS IN SIX SCENES」のCRISIS(危機)が始まる。

奥さんは娘に感化され、読書会の課題図書が毛沢東語録に。
ヒマを持て余す奥様連中は、どんどん赤く染まっていく。
アレンが縁談を成功させたカップルは、娘の登場ではぎくしゃくし、ウォール街で働き平和な家庭を築くはずだった若者はキューバへ娘と落ち延びたいと言い出す。
 
 

映画六分割

フランスで開催中のカンヌ国際映画祭でインタビューに応じたウディは、ジョークを交えながらTVシリーズに悪戦苦闘していることを明らかにした。「オーケーと言った直後からずっと後悔し続けているよ」とウディ。「ずっと手こずっているんだ。できると思ったのは自惚れだったよ。ええと、映画を作る要領だよね?6回に分かれた映画を作るのと同じだよね?と思っていた。だが、そうじゃないことを痛感したよ」と述べた。

TVシリーズの脚本を書く自分を"陸に上がった魚"に例えながら、「(アマゾンの)皆さんに"驚いたな。あれだけの予算と自由を与えてもらって、結果がこれか?"と思われないか心配だよ」と語るウディ。「ストーリーを立ち上げ、30分でまとめ、次回につなぐ、なんて僕向きじゃないよ。驚くほど後悔している。この話を引き受けてからずっと、楽しい気分など少しも味わえないよ」と気弱な様子だ。
ニュース:ウディ・アレン、初のTVシリーズに苦戦?「引き受けたことを"後悔"」とこぼす | 海外ドラマNAVI

アレンが気弱に語っているようにこの作品、ドラマとしてはなかなかしんどい。

要はアレンの長編映画を6つにぶつ切りにしたような内容だが、複線を張る割に回収が追い付かず、最終話でとんでもない大渋滞を起こす。
この渋滞が、スラップスティックな展開を見せるので面白くもあるが、結果的に解決できていないエピソードが山ほどあるのでどこか引っかかる。
アレンの作品は、グランドホテル形式……と言うか複数の人間の関係性が描く人間模様が物語を織り上げるところに魅力があるんだが、どうにもメインテーマがボヤけた印象。


現代の、このタイミングでコミュニストの娘を登場させ、資本主義を赤く染めていく……と言うあたり、米中関係なのか、毛沢東とチャーリー・チャン*1とを言い換えたり、相変わらずのアレンっぽいインテリゲンチャで不親切なセリフ回しが山ほど出てくるが、今や国交回復したキューバがタームとして頻出してもなんかモヤモヤする。


物語を俯瞰すれば
「平和な資本主義を生きる夫婦に武力闘争と革命の風が吹いた」
といったところ。
時代は、キューバ危機。

でも中国なんだかキューバなんだか。
この現代に資本主義・共産主義の対立軸ってのもなんかボヤけた感じがするし、アレンの家庭の社会的位置も中産階級ってあたりフワッとしてる……うーむ。
結局、政治的な事由や国の関係性って時代に依存してしまうし、それを二重写しにするには時代の変化が早すぎる。
アメリカとキューバは国交回復し、中国は大国にのし上がり、アメリカは右に舵を切る。
そういう中、キューバ危機の1960年代をベースに毛沢東をギミックにして描こうにも状況が違いすぎて重なり合わない。だからテーマがモヤモヤする。

最後は夫婦のベッドの会話で日常に戻ることが提示され幕がおりる。
多くの話の回収を放りだし、「いやー、いろいろあったわねー」で終るのってどうなのよ……。
そのせいか、本国アメリカでも評判はよろしくない模様。
 
 

HARD BOP

The Sidewinder

ただ音楽は、アレンらしくジャズにこだわってる。
いわゆるハードバップのミュージシャンが多い。
この選曲、もしかしたら

・ビバップ→ハードバップ→(キューバ音楽の影響)→ラテンジャズ

このジャズの変遷を踏まえて選曲したのかもしれない。
以下、中からいくつか。

まずは、リー・モーガン(1938~72)
ハードバップを代表するトランぺッター。

 
 
そしてジャズドラマー アート・ブレイキー(1919~90)と、そのバンド 「ジャズメッセンジャーズ」のメンバーであるボビー・ティモンズ(1935~74)。

オススメ

といった感じ。

全6話である必然性もあまりなくて……とはいえベタな分、リンチの「オン・ジ・エアー」と比べればマシかもしれないが*2

ドラマの筋としては、モヤっとするが、そういうことを考えずディテールだけを楽しむなら、なんかドタバタして、スラップスティックで、おもしろい風にも観れると思う(その辺りを評価してかアレンにしては珍しく日本のレビューは概ね高評価)。

正直、だったら同じ時間で「ブロードウェイと銃弾」とか「ギター弾きの恋」とかアレンの名作映画を一本観る方が、有意義な気がしなくもない。
この二本は超絶オススメ(ブロードウェイ〜のチャズ・パルミンテリが最高)。

ギター弾きの恋 (字幕版)

ギター弾きの恋 (字幕版)

*1:アール・デア・ビガーズの書いた作品に登場する中国人探偵

*2:デヴィッド・リンチがツインピークスのヒットに次いで撮った連続ドラマ。打ち切り