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ミンジュを殺すのに疑問を持ってはならない 映画「殺されたミンジュ」

キム・ギドク監督による群像サスペンス。ある夜、ひとりの女子高生が惨殺された。
これを機に、ある男が7人組の謎の集団に誘拐され拷問を受ける。
以来、事件に関わったほかの者たちもひとり、またひとりと誘拐され…。

久々に観るキム・ギドク作品。
ギドク作品は難解なものが多いが、これは比較的わかりやすい。
「どれだけ理不尽なものであれ上意下達によって人の自由意思は奪われる」とでもいうか。



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ミンジュ

冒頭。
タイトル通りミョンジュは殺される。
男らに押さえつけられ、テープで顔をぐるぐる巻きにされて。

ミンジュは殺されるが、その理由は最後まで明らかにならない。
この映画において必要なのは、ミョンジュが殺されたという事実だけ。
なぜか、どうしてなのかは必要ない。

ただミョンジュは、殺された。
その後、殺害チームは一人づつ拉致され、拷問を受け、殺害した事実を紙に書かされる。

殺したのは私怨でも犯罪目的でもなく、命令による。
上の人間はさらに上の人間からの命令によって。
命令に対して「どうしてなのか?」とは聞かない。

この「理由なく命令に対して従う」という構図は、ミンジュの殺害チームとそれを拉致するマ・ソンドク率いる謎の男らの両方に、鏡のように当てはまる。
それを指示するトップには理由があっても、それ以外のメンツには何の動機もなく、言われるがまま暴力を行う。
ただ従っただけ。

民主主義の韓国ですら軍属であれば唯々諾々疑問を持たず支持には従わなければならない。
まるで北朝鮮のように。
そんな風にも見える物語の構図。

贖罪の有無

キム・ギドクの場合、過去作には「春夏秋冬、そして春」や「嘆きのピエタ」など仏教色というか贖罪の意味が強い作品が多いのだけれど、今作に限っては贖罪よりも「動機なき暴力」に比重が強い。

抽象性が少なく、宗教的要素が少ないので非常にわかりやすい。
キャラクター造形も類型的で、ホンモノの軍人をニセモノの軍人が拉致し拷問することでホンモノとニセモノが入れ替わって見える辺りも鏡の構図なんだろう。

結局、暴力によって円環は閉じられるが、終始リアリスティックな展開、そこに贖罪がない。救われない。
マ・ソンドク演じるリーダーが「(こんな世界で)生きることが地獄だ」という。
だから彼が殺されることは、救いになるだろうし、あえて惨たらしく殴り殺されるのは贖罪なのかもしれない。
だとしたら殴り殺す方は殴り殺すことで救われるのか。

どこもかしこもわかりやすいが、残念に感じるのはキム・ギドクの作品には救済や贖罪を求めてしまうからかもしれない。
「サマリヤ」で生き残った少女や「弓」で沈んだ舟や「嘆きのピエタ」で贖罪に身を捧げた男や。
それらと比べると、何となく物足りなさが残るかもしれない。


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