読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

今絶対読むべきSF作家 ケン・リュウ「紙の動物園」「もののあはれ」

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

ケン・リュウという作家はとても面白い。
SF作家として広く知られているが、作品のテーマは幅広い。
宇宙に進出した人類や不死を扱ういかにもSF的な世界観の作品もあれば、中国やアメリカなどの歴史的背景が色濃くある作品や、人種問題がテーマだったり、親と子の物語だったりとさまざま。
それでいてどれもクオリティが高いのだから驚かされる。



【スポンサーリンク】



228

たとえばこんな話がある。
両親に連れられアメリカから台湾に越して来た娘。
異邦の地で少女はうまく溶け込めずにいた。
そんなある時、中国人の老人と知り合う。
老人は少女に文字占いを教える。
漢字という象形文字の成り立ちやそこから導き出される答えは、英語園の少女にとっては魔法のようにも見える。
この辺りは、ファンタジーというかメルヘンすら感じさせる。
ところが老人の背景には、中国の歴史が重く横たわり、やがてそんな大人の事情……世界の現実が襲いかかって来る(文字占い師)。

背景には、台湾の歴史的な事件がある。
幻想的な要素を描きながら、その後ろに時代の悲劇を配置した名編。

死と生と

「死の尊厳は、死を前にしてわれわれが感じる無力さを取り除くためにでっちあげた神話だ」

不死を扱った話が二つある。
一つは、不死を手に入れた女性の話。
死体をオブジェにする仕事につき人より死について考える機会の多い彼女は周囲の人々が死に行く中で生き残る(円弧)。

わたしたちは、死に対して負けを認めた瞬間に人間であることを止めるのよ。

もう一つは同じ世界の別の話。
遠く惑星へと赴く途中の移民船に不死の技術が伝えられる。本来、数世代が死に生まれようやく到着するはずの惑星に不死の技術があれば誰も死なずに到着することもできる(波)。

「生は死があるからこそ」という考え方と「死なないからこその生」という考え方と。
ハードウェアとソフトウェアのように意識が生き延び続ける不死の世界。

不死を受け入れるか、それとも死を受け入れるか。
母と子という種の関係性と、個人としての生と死という同じモティーフが違うベクトルで描かれる。


「良い狩りを」では、まるで武侠小説のような妖怪退治が描かれ、しかし時代が近代になるに連れ妖怪がいなくなり、西洋文明の影響が色濃くなる。
そんな中、妖怪退治を生業にする親子は生き方を変えるしかなく、1人生き延びた妖狐もまた妖怪としての生き方を捨てなければならなくなる……という妖怪meetsスティームパンクのような話で、こちらは第二短編集「母の記憶に」の冒頭、家族を殺された男の熊への復讐譚を描いた「烏蘇里羆」と同じ世界線の物語。

紙の動物園

米国人の父親と中国人の母親の間に生まれた息子。
紙の動物を折り、動かしてみせる母の小さな魔法。
しかし英語がうまく話せない母親を息子は恥じ、徐々に避けるようになる。
紙の動物たちも、箱の中に閉じ込めてしまう息子。

思春期にあるような子が親を恥じる気持ちと、東洋人がアメリカで生きる異文化の難しさと、やがてそれを乗り越えた先にある母子の絆を描いている切ない名編「紙の動物園」。

西洋文明と東洋文化、時代の変化、親子の絆。
舞台も米国、中国、台湾から満州、日本からアメリカへの巨大トンネル、宇宙船、遥か遠い遠い惑星まで。
現実を背景にした話もあればパラレルワールド的な世界もあるが、どれにもセンス・オブ・ワンダーが見える。


間違いなく今読むべき作家の一人。
もしSFが苦手なら、非SFの短編集を集めた「紙の動物園」から。
SFが好きなら「もののあはれ」から。
どちらを読んでも次が読みたくなると思う。
文庫のほうが、作品の傾向に応じて別けられているので読みやすい。

必然的に、今は第二短編集「母の記憶に」を読んでます。

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)
ケン リュウ
早川書房
売り上げランキング: 2,173

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)
ケン リュウ
早川書房
売り上げランキング: 14,223

母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
早川書房 (2017-04-30)
売り上げランキング: 4,322