暴走する復讐と映画の終わり 藤本タツキ「ファイアパンチ」第五巻

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「女の体に覆われた男」――白日の下に曝されたトガタの“秘密”。長きに渡り苦しみ続けてきた胸の内を吐露するトガタの言葉がアグニの心を激しく揺さぶる!! 己が運命と対峙すべく、アグニは全ての元凶である“あの男”の元へ…!!

今最も読むべきマンガ「ファイアパンチ」も終盤戦。
すさまじい急展開の第五巻。
※1~4巻までに関しては、記事下部 関連過去記事リンクからでどうぞ



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ファイアパンチ

まずファイアパンチの暴走について。

虚構の映画が現実に影響を与え、映画に沿わせるべく現実を捻じ曲げるのがこの作品。
ファイアパンチの、誰かに操られたような、妄想の中の妹はアグニの怒りを操り、暴走は現実を捻じ曲げ、復讐を果たす。

精神も怒りに飲まれ、妄想に疲れたファイアパンチは暴走する。
象徴として、残された人間の半面も炎に包まれ燃える。
つまりアグニの燃える全身というのは、復讐心の暗喩である側面がある。
人間らしさの否定、主人公から悪役への転換。

そして人間の半面が戻る……意識を取り戻して自分が暴走し行った殺戮を目の前にする。
虚構が現実を歪めた結果。

トガタの映画では、正義の味方を演じるはずだったアグニ。
だがカメラの前で描かれた現実の復讐物語は、主人公ではなく悪役の記録にしかならなかった。
怒りに任せ、暴走し、誰かの思考に囚われ、殺戮の結果、子供を含む全員を皆殺しにする極悪人アグニ。

トガタ

トガタの性同一性障害も、現実と虚構の歪みの一つと言える。
脳で望んでも現実は思い通りにいかない。
だから現実を虚構に……思考に近づけるしか無い。

現実は思考の結果であり、現実は思考に従うべきであって。
その結果として映画を主として、現実を従にするこの物語は非常に歪んでいるわけだが。
トガタの映画への異様な固執も、自分の体と精神の不一致を根本にすると考えれば、理解できる気もする。

しかし自分が望んだ映画の結末を、現実で実際に描かれたそれは、トガタの想像を越えた。
アグニの暴走は、映画で描くはずだった復讐物語を、もっとも醜悪な形で描いた。

ユダ

巨大な樹ユダ。

アグニを神と崇める宗教の教徒が、全員ユダに絡め取られるというのは皮肉なネーミングセンス。
異教徒に対して残酷に殺戮を行う某マジョリティな宗教団体のようであるといえるかもしれないが。
人間の身体に根を張り養分を吸い上げ成長するのは、宗教団体を具現化したような姿。

炎に包まれた復讐鬼であり偽の神であるアグニが、ユダと対峙する次巻。
いよいよ世界の命運がかかった戦い。
残り少ない物語が終盤にかけて速度を上げてる。

もうアグニが生きる目的としていた「復讐」は最悪の形で終わった。
ただ目の前には人類を崩壊させる真の敵がいるが……。

どう転んでもハッピーエンドがない、鬱エンド待ちの今作。
どうやって収束させていくのか、目が離せない。
もはや虚構のモラトリアムに生きるしか……。


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