逸脱するジャズは技術があってこそ成立する

東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編

ジャズは逸脱するものだとかしないものだとか、とりあえず幕を下ろして観客と舞台を遮断してからやっていれば、こんな世間のジャズの「ジ」の字も聞かないお歴々に「体罰だ!」っとマウント取られたりはしていなかったろうに。
「世界的ジャズプレーヤーも衰えた」とか言われているのも見かけましたが、ジャズのプレイを競い合ってたわけでもないんだから、衰えたも何もあったもんじゃないですが。
負けそうになったから叩いたんでしたっけ?
それは違う世界線の話ですね。

衰えたも何も、現役と今の音を聞いて知ってるのかねぇ……。



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ビバップ

ところでジャズは、もともとビッグバンド形式……いわゆる映画「スイングガールズ」で知られるような形式で演奏されていて、別に「ジャズとは逸脱だ」なんてことはなかった。
ソロパートでは、自由度が高くてもそれ以外の部分で個々の遊びは抑制されてる。


ところがジャズマンの一部が、店の閉まった後、遊びでセッションをやりつつ、オリジナルのコードは保ったままでメロディを勝手に吹いたりし始めた。
そこからビバップというジャズの流れが始まったと言われてますね。
いわゆるモダンジャズという奴。
踊るジャズから聴くジャズへの転換点。

「逸脱」だのなんだのってのは、そこからのジャズの流れでして、今回みたいな旧来的なビッグバンド形式は、オーケストラに近く逸脱は少ない。
ソロパートで「セッション」みたいなバカ太鼓が喜ばれるかどうかというのは別。

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ジャズは逸脱するものか否か?といえば、これは難しい。
ロックもジャズも同じく黒人音楽が源流ですが、ジャズは白人のブラスバンドと黒人音楽が混ざり合ってできたとも言われてる音楽。
それが形を変えてモダンジャズなどにつながった。

これが仮に「パンク」を含むような「ロック」なら逸脱するものなんですよ。
ドロップインの音楽ではなくドロップアウトが前提なので。

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繰り返される諸行無常、それでも蘇る性的衝動でお馴染みThisIs向井秀徳率いるZAZENBOYSなんてメロディもリズムも逸脱するわ、止まるわ、変拍子だわ、即興だわ。
全編逸脱、スキルフルな音楽集団。
実にロックです。

アイドルの皮を被った「楽器を持たないパンクバンド」ことBiSHがロックなのは、アイドルのフェスに出演し「-BiSH-星が瞬く夜に」を2ステージで9回やったからロックだと言われる。
これはアイドルとしてのステージの作法から充分に逸脱してる。

ところがジャズの逸脱はコード進行を基にして、もちろんそこに個人によるセンスはあるとしても、とはいえ無手勝な演奏がジャズかどうかと言われれば非常に微妙。
譜面通りに演奏しないのがモダンジャズの前提ですが、とはいえ今回はビッグバンド方式ですし、逸脱だとか言われてもなかなか微妙。

バグス・グルーヴ
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たとえばセロニアス・モンクにマイルス・デイヴィスが「俺のソロパートのところで演奏するな」と言ったとして有名なバグスグルーヴなんて名盤がありますが、逸脱というなら実に逸脱。
ギスギスを溢れさせつつ名プレイヤーが行ったセッション。

でもこれにしろ無手勝なプレイをするわけではないし、それを逸脱とは呼ばない。
「アート無罪」じゃないけれど、面白ければ何でもありという音楽ではない(少なくともビッグバンドは)。
※ちなみに体格差がありすぎてマイルスがモンクに喧嘩を売ることはまずなかったらしいですが。

もちろん山下洋輔氏みたいにピアノ燃やしながら演奏する方もいらっしゃいますが、あーいうパフォーマンスチックなことはそれはそれとして。
じゃあビッグバンドの演奏中に新人ピアニストがピアノに火をつけて演奏しても「ジャズだから、逸脱の音楽なのでアリ」と言えるってことなのかすごいなー(棒

アドリブの方法論

曲を一旦バラバラにして、で、旋律とコード進行って要素に抽象化・分割して把握し、演奏していく。こうしたやり方をぐーっと推し進めることによって、ビバップっていう音楽は、それまでのアメリカのポピュラー音楽にはあり得なかったようなサウンドを作り出していったんです。
(中略)
まず、第一に(板書)ビバップは音楽を強く、(A)ゲーム化、スポーツ化しました。
ゲーム化。うん、これはどういうことかっていうと、それまではポップスにおいても、楽器演奏者はクラシックと同じように基本的には書かれた譜面をそのまま演奏していたわけですね。
(中略)
で、しかし、バップっていうのは、このアドリブ部分を全面的に展開し、それだけで曲を成立させようとした音楽でした。
東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編

無手勝に聞こえるアドリブにも、それなりの方法論とセンスに裏打ちがある。
当たり前ですが。

ドラムだって適当に叩けばいいわけではない。
ましてやスティック捨てられてもドラムを続けるのが、ジャズ的に正しいとかどの世界線のジャズなんだろうか?

型なし

ところで十八代目 中村勘三郎が生前、密着ドキュメントの中で
「型があった上でそれを破るから型破り、型がないのに破るならそれは型なし」
と昔から言われてるという話をされていたんですが、今回の件で言うならジャズの本質だろうが、身についた型もないのに逸脱するならそれは型破りではなく型なしでしかない。

そもそも今回の件は、そういう話でもなかったのに、なぜか「ジャズは逸脱するものだからあれも正しい」とか意味の分からない方向に行ってしまったのはよくわからない。

「元に戻せるならメチャメチャやっても正しいのだ」らしいが、元に戻す技術があるなら、そもそもこんな騒ぎになっていないし、そもそも戻せていないだろう。
バークリー音大卒で、これか……。

叩かれた少年は、自分の「逸脱」で日野皓正が責められるのを喜ぶのか。
少年に否はあるし、それでも叩いた日野皓正はたしかに悪い。
どうすればよかったか、はあの場にいなければわからないことだろう。

ただ元ジャズマンかなんか知らんが、
「ジャズは逸脱の音楽だから少年のドラムはジャズ的に正しい」
という意見がおかしいのは、はっきりと分かる。

ニューヨーク・タイムズ
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