枝野幸男とジェレミー・コービン ブレイディみかこ「労働者階級の反乱~地べたから見た英国EU離脱~」

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急立ち上げだった立憲民主党(立民)が躍進した影には、SEALDsの協力があった、という記事。
SEALDsの行う活動に関しての評価はさておき、ちょうど読んでいたブレイディみかこ「労働者階級の反乱~地べたから見た英国EU離脱~」に引っかかる部分があった。



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円周の内と外

労働者階級の反乱~地べたから見た英国EU離脱~ (光文社新書)

この「労働者階級の反乱~地べたから見た英国EU離脱~」では、労働者階級の男性と結婚し、現在も英国に住むブレイディみかこ氏が、トランプ現象と同一に扱われがちな英国のEU離脱(ブレグジット)が、本当に同じものなのかどうかに疑問を持ち、それを確かめるため英国労働党の歴史を振り返るなどした一冊。

ブレイディ氏が、友人らに英国離脱について直接聞いていたりするのも、現地に住む著者ならでは。
日本ではわからない生の意見も多く、読み応えがある。

中でも英国と米国での労働者階級の認識の差が非常に面白かった。
少し下に引用などする。

OECDの2010年の調査では、英国と米国は、もっとも社会的流動性の低い国になっている。つまり、英米は、低所得者層に生まれた子供はそのまま低所得者の大人になる可能性が最も高い社会になっているということだ。

ジョージ・メイソン大学公共政策学院准教授ジャスティン・ジェストの著作「ザ・ニュー・マイノリティ 移民と不平等の時代の白人労働者階級」によると移民とも違う白人労働者階級が3つの無力感を持つとしている。

・数が減少しているという認識
・排除されている気分
・差別の対象になっているという感覚

こうした3つの無力感は、当事者の思い込みではなく、実際、白人社会の中で白人労働者階級は隔離されているのだという。
ジェストはさらにロンドン東部と米国のヤングスタウンで実験を行った。
4つの同心円を見せ、それが社会の縮図だとして、一体どの円にどの層のどのグループがはいるか?と聞き取り調査を行ったところ、以下のようになったのだそうだ。

(ここでは、2つの結果だけを引用するが)まず英国での調査結果によると、多くの人が一番中心に「ロイヤルファミリー」「貴族」「上流階級」を書き、次いで「専門職」「キャリアでの成功者」「政治家」などを書いた。
次が「マイノリティ、移民」などを書き、調査対象者のほぼ全員が一番外側の円……「白人労働者階級」を挙げたそうだ。
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※英国での調査結果

対してアメリカで聞くと、一番中心から「金持ち」「ミドルクラス」など収入の差による階梯として書いた人が多かったらしい。
なので中には「ミドルクラス」ではなく「生活保護受給者」を金持ちの次に書いたひともいたらしい。

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※米国の調査結果
※図は、ブレイディみかこ「労働者階級の反乱~地べたから見た英国EU離脱~」 本文に引用されたグラフを参照し作成したもの

英国では世襲や家柄と言った生まれついた属性が強く働き、アメリカでは資本の多寡が差になっているのがわかる。

さらにアメリカではその円を中心に向けて移動できる可能性を信じ……俗にアメリカンドリームといわれるような考えもまだ生き残っているが、英国で労働者階級が貴族階級や上流階級になることはまずありえず、労働者階級は労働者階級として生涯を終えるしかない、という思いが強い。

本来自分がいるべき円周から、移民らが入り込んだことで最外周に白人労働者階級は追い出されている。
そんな疎外感が移民やマイノリティに対して「自分たちより社会的に優遇されている」と感じている、という。
日本からは、見えない英国階級制度の根深さが伺える。

本書ではその後、労働者階級と労働党の100年の歴史を振り返り、英国がどのような歴史を経て現在のようになってきたのかを綴っている。

バーニー・サンダースとジェレミー・コービン

簡単に言えば、保守党が言うところの(何度も何度も言うところの)、ブレグジット交渉で「強く安定した 」状態を保つため、議会の安定過半数を求めている。
メイ首相が総選挙を発表した時、世論調査はメイ氏の地滑り的圧勝を予測。首相は政治的権力の足固めをするだろうと思われていた。しかし政治の世界の動きは速い。
【英総選挙】 英国人ではない人向けの解説 - BBCニュース

2017年6月、英国で総選挙が行われた。

1年前、英国のEU離脱を問う国民投票が行われ、僅差ではあったが英国はEUから離脱することになった。
結果を受け首相となった保守党テリーザ・メイ氏は、EUと渡り合うための支持を固めるためとして総選挙を実施。

保守党が圧勝するという事前の大方の予想を覆し、保守党は単独過半数を失い、労働党が大躍進を遂げることになった。
労働党ジェレミー・コービンは、その前まで党員からの支持を失い、労働党はバラバラと言われていたにも関わらず。

メイ首相が解散総選挙を発表したとき、今回の選挙はブレグジット選挙になると言われていた。保守党は「ブレグジットの交渉を行えるのは強いリーダー。それができるのはテリーザ・メイ。ジェレミー・コービンのようなしょぼい指導者には無理」を反復した。
(中略)
「ブレッド&バター・イシュー」とは、すなわち下部構造のことである。
以前、ここで「もはや右と左の時代ではない。上と下の時代だ」と書いたことがあるが、これは「上部構造と下部構造」にもスライドできる。
しなくてもいい選挙をやって議席が過半数割れしたメイ首相は、人間が生きる土台であるカネの問題、つまり下部構造を軽視したツケを払わされたのだ。
2017英総選挙:コービン労働党まさかの躍進。その背後には地べたの人々の運動(ブレイディみかこ) - 個人 - Yahoo!ニュース

このジェレミー・コービン率いる労働党躍進の一つの理由として、サンダース陣営の協力が囁かれている。
この選挙の前、アメリカで行われた大統領選候補者選びにおいてヒラリー・クリントンに敗れたバーニー・サンダースの支援者は海を越えてコービン率いる労働党にその選挙戦術を伝えた。

コービン現象とよく比較されるのが米国のバーニー・サンダースと彼の支持者たちだ。実際、今回の英国の選挙戦では、サンダースの選挙キャンペーンのスタッフとコービン陣営が繋がり、具体的なキャンペーンの展開法を伝授してもらったりしていた。

そして海の向こうでは、英国総選挙でのコービンの大健闘を見て、サンダース支持者の若者たちが「バーニーだったら勝っただろう」というハッシュタグでつぶやき始めた。
第5回 若者たちはなぜコービンを選んだのか:英総選挙と借金問題 – 晶文社スクラップブック

立憲民主が「右や左ではなく上か下か」と言い出したとき、どうにもどこかで聞いた気がしたのだが、考えてみるとブレイディみかこ氏の本の帯にその言葉があった。
本人もブログにこう書いている。

立憲民主党という政党の党首が「右か左かじゃない、上からか下からか」と言っているのを聞いて、
どっかで聞いたような。拙著「ヨーロッパ・コーリング」の帯文???と思いましたが、
ははは、んなわけないか。いくらなんでも考えすぎだよな。と思ってたんだけど、
同じ人が今度は「右でも左でもない。前に」と言ってるのを聞いて、
こりゃどう考えても栗原康「死してなお踊れ」の一節なんですけど、
もしかして立憲民主党の選対に無党派アナキストがいる?(いるわけないんだけど。「政党」の選対に。笑)
THE BRADY BLOG:今回の選挙で思ったこと

ヨーロッパ・コーリング――地べたからのポリティカル・レポート
ブレイディ みかこ
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立民のゆるキャラが英国謹製のギター リッケンバッカーを持った立憲民主くんだったり、演説のやり方だとか、どうにも急場ごしらえの政党にしては(急場ごしらえだからかもしれないが)フットワークが軽く、やけに今っぽい手をいくつも打ってくるのも、影にSEALDsがいたと聞いて腑に落ちたんだが、さらに今回のSEALDsのような間接的な政治干渉は、まるで敗北したサンダース陣営がその希望の襷を渡すかのごとく海の向こうの労働党を支援したように、SEALDsが立民を支援・応援したのに近い構図に見えて仕方がない。

今回の選挙戦略にしても、そんなサンダースやコービンのやり方を一部模倣した可能性はある。
SNSを通じ知り合った相手にカンパするような感覚で政治的な支持を行う。
旧来的な政治屋ならやらない手法であってもSEALDsならやるかもしれない。
(そんな立民への投票は高齢者が多く、若者が自民党に投票したのは皮肉だが)

立民は、現在のところ「枝野幸男with立憲民主党の有象無象」
実態も政治理念も、あくまでも枝野幸男一人のタレント性によるもの。
だから「枝野は嫌いじゃないけど立民の議員は嫌い」という意見も聞くし、それも納得がいってしまう。

政党づくりの段階でグダグダになり、タレント小池百合子のカリスマ性が剥がれ落ち人気が急落した希望の党より、立民がクリーンで勢いのある政党に見えるのは、まだ歴史が浅い上に、枝野という政治家の真っ直ぐさが全面に出ているからでしかない。
結党から選挙まで日が短かったのが、いい方に転んだ。
先日のようなスキャンダルによって党員が党のイメージを次々穢していけば、以前の民主党のようにグダグダな脆弱野党になっていくのは言うまでもない。
真贋が問われるのは、これから。

日本は、英国のように露骨な階級制度はない。しかし残念ながら「右か左かじゃない、上からか下からかだ」という言葉がしっくりくる社会に生きている。
だとすれば、「上と下」がひたすら戦い続けて来た英国労働者階級の歴史や現状を知るのも無駄ではない。

民族主義の行き着く先

英国のEU離脱は待ったなし、カタルーニャ州は独立を目指し、対しスペイン中央政府は自治権を停止しようとしている。
クルド人自治区もまた独立を目指す。
今や民族主義が盛り上がり、グローバリズムが反転しつつある。

移民に仕事を奪われた、移民が悪い、移民がいなくなれば改善する。
だが果たしてそうだろうか。
政治が担うべき責任を移民に転嫁し支持を得る政治手法は、いつか格差の責任を負いかぶせるための移民がいなくなった時にわかる。
本当に格差が解消されるか。
それとも格差は変わらず、円の外にいた白人労働者階級は、その内側の移民がいなくなっても相変わらず円の最外周にいる自分を見たとき、次は何が悪いと言い出すのだろう?

社会のシステムを変えるためには政治しかないが、社会を構成する誰にとっても最適な社会は今のところまだない。


最後に、ブレイディみかこ氏のあとがきから引用する。

「他者の立場になって考えてみる、異なる意見を持つ人間に感情移入してみる」努力ができるということこそが、想像力という知性を持つ人間の特性なのだ。
 そもそも、EU離脱を招いた「政治と地べたの乖離」が、その知性の欠如に端を発していたことを思えば、わたしたちはそのことを再び思い起こす時代に来ているのだと思う。
労働者階級の反乱~地べたから見た英国EU離脱~ (光文社新書)