デヴィッド・リンチでマジカルガール風ミステリドラマ「THE SINNER 記憶を埋めた女」

Netflixドラマ。
主演は、ジャスティン・ティンバーレイクの奥さんであり、パスカル・ロジェのホラー「トールマン」で母親役を演じたジェシカ・ビール。
今回は、毒親に育てられた娘役。

トールマン(字幕)
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謎を捜査する刑事役には、「インディペンデンスデイ」で戦闘機に乗る好戦的大統領、リンチの映画「ロストハイウェイ」で白塗りのおっさんに「ディック・ロラントは死んだ」とさんざ言われ、最期は真夜中の道路をイレイザーヘッドしながら爆走したビル・プルマン。

貼り付けた予告でもわかるようなサイコ・サスペンス。
幸せそうなジェシカ・ビールの封印された記憶と謎の過去。
音楽をトリガーにした殺人なんて過去にもありましたが、海岸で聞いた曲をきっかけとしてジェシカビールは暴走。
平和な日常は、一瞬で崩れ去った。



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フェティッシュ

事件の謎を追うドM刑事ビル・プルマン。
妻と不和の真っ最中。
浮気相手はドSの女王様(普段はダイナーのおばさん)
※日本でリメイクするなら野口かおる辺りになりそうな

スーパーで女王様と出会う刑事→同僚に「先に行っててくれ」→同僚が去ったのを見て四つん這いになって→踏みつける女王様。

うーん、フェティシズム。
他にもベッドで首を絞められ落ちたり、ムチ打たれたり変態ドM刑事万歳。
だがそんな変態趣味を向けることなく、捜査には真面目に取り組む。

ジェシカビールが封印していた過去の記憶を催眠術で探り見えてくる封印された出来事。
狂信的な毒親と病弱な妹の記憶、謎の部屋、ドラッグ……。

こういったフェティッシュさは、好み。
が、この作品で、フェティッシュなサディズムやマゾヒシズムが単なる道具立てとしてしか機能しない。
そんな要素が事件の本質に繋がらないのがなんとも歯がゆい。

もちろん暗喩としてジェシカ・ビールにとっての毒親と妹、ビル・プルマンにとっての女王様が「逃れられない沼」なのはわかる。
わかるが、そこに結果として解決がない。

ただ同じ沼を共有する二人だから共感し、ビルプルマンが事件に深入りしてしまう理由づけとしての機能はあっても、それ以上はない感じがした。
なにせ毒親は終わりまで毒親のまま、怪しい男もそのまま、女王様もそのまま。
決別し新しいスタートを切る……には過去の要素が解決されず、放置されてる気がする……。

サスペンス?ミステリ?

記憶を埋める女

ミステリと呼べるほどの推理がないので(あるのは音楽と殺意の結びつきとか?あとはほぼ催眠と証言による検証、検証)サイコサスペンスと呼ぶのが一番適切かもしれない。
ドイツミステリの原作未読なのでなんとも言えないが、色々とフェティッシュで黒々とした闇社会を連想させる道具立ては面白いのに、最終的にロジカルなオチがついてしまう。

想像でしか無いが、もしかすると制作者は倒錯した表現や雰囲気を使いたかったが、原作はそれほどでもなかったので演出レベルで終わった、とか?
惜しい。

トカゲの部屋

マジカル・ガール(字幕版)

スペイン映画「マジカルガール」にトカゲの部屋が登場する。
その中に何があるかは一切明かされず、ただその中に入ることで法外な収入が得られる。ただし何かしら肉体的精神的対価を払わなければならない。
あえて描かれない「何かわからないが恐ろしい部屋」だからこそ観客の想像を掻き立てるわけであって、その謎に対して「拷問器具を並べた部屋」だったりしたらその時点でトカゲの部屋は陳腐化する。
恐怖や不気味さというのは、理解できない、不明だからこそ「恐ろしい何かしら」を想像させる。

性倒錯、乱交、埋められた死体、封印された記憶、惨劇。
監禁、ドラッグ、謎の部屋、覆面の男。

こういった道具立ては、リンチの作品のように不条理や倒錯趣味を感じさせる。
不条理でどうしようもない最期を迎えそうな要素が揃っているが、このドラマで「秘密の部屋」は、ジェシカビールの記憶によって真実が白日の下に晒されてしまう。
謎めいた要素も、観客に納得される理解ができた時点で、そこには深い闇も名状しがたき狂気も存在しない。
推理ではなく、当日の記憶によってすべてが語られる。

当然ながらオチは、謎が提示された時より魅力に劣るものだから「あぁ、そういうことだったの。ふーん」少々肩透かしに感じてしまい、なんとなくモゾモゾする。
綺麗なんだけど、綺麗すぎるというか。
怪奇趣味横溢するミステリの最後が、ゴリゴリアリバイトリックと機械式のトリックだったようなものだと言えばいいか。
手品は手品としてタネがわからないからこそ面白い。
全てのタネがわかってしまうのでは驚きも半減する。
幽霊の正体見たり枯れ尾花……。

刑事の倒錯趣味も、猟奇的オチへの伏線かと思いきや、視聴者に向けたレッドへリングの一助。


何やら文句ばかりに読めるが、サイコサスペンスとして面白いし、よくできている。
きちんと謎も収束するし、普通にオススメできるクオリティ。

変に倒錯趣味からの展開を期待した自分みたいな歪んだ視聴者が勝手に期待しただけ。
もっと変人を山ほど出してくれてもよかったんですよ。
なんだかとても惜しい作品だった。

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