【映画】パイレーツ・ロック/2009英独
1960年代、まだイギリスに民放ラジオが存在せずポピュラーミュージックの放送が制限されていた時代に、北海からロック音楽を流して人気を集めていた「海賊ラジオ局」を取り巻く若者と政府を描くニック・フロスト好きの自分としてはロック専門ラジオ局の話しだし、やっぱり「ショーン・オブ・ザ・デッド」とか「キンキー・ブーツ」みたいな映画を期待して観る訳です。
ところが、ふたを開けてみればニック・フロスト出演の諸作よりも監督リチャード・カーティス(「ラブ・アクチュアリー」「ブリジットジョーンズの日記」等々ロマンティックコメディが多い)の「善良なコメディ」色が強い。確かに選曲は面白いし、聞き覚えのある懐かしい「ロック」が多数使われた音楽好きには楽しい映画なんだろう。
構造的には「あの頃ペニー・レインと」みたいな「ボーイ・ミーツ・ロック」と少年の成長物語を骨子に、ロック専門海賊ラジオって言う素材を組み合わせた面白い映画にしかならないだろう素材の持ち味を見事に殺して無難な映画に仕上げた手腕は流石。
まず英国政府の対応。
政府の「海賊ラジオなんて言う不謹慎なモノは潰してしまえ」という大人vs若者の対立項に対して、政府からの攻撃は作中で案だけは色々出るものの何らの影響も及ぼさず、スパイで忍び込んだ政府の人間が一度乗船したくらいで、最後の最後まで政府の攻撃は不発。と言うか何の効果も及ぼさない。
この映画って、政府側のパートの存在が一切無くても成立する。
抑圧に対する反抗、が描かれるからこそ観客は主人公らに感情移入して「頑張れ」って気持ちになるんであって、例えば政府の「広告収入を断つぞ」って作戦に「アメリカから有名DJを呼んで来る」ってだけで解決。
暴力的な臭いが一切しない。
危機?なんですかそれ?どっかでやってるんですか?って舟の中は他人事の世界。
政府は騒いでるだけで特に実効的で効果的な手段を打てる訳でもないまま話は進んで行く。
危機感が無く繰り返される日常がメインなら少年の成長物語(ボーイ・ミーツ・ガール、ロック、エディプスなどなど)を主題にしそうなもんだが、その辺りも弱い。
結果、ラジオDJたちの(監督が得意な)群像劇に落ち着く訳だが、それぞれのキャラも仲が良いし、特に対立がある訳でも無く、あっても伯爵(フィリップ・シーモア・ホフマン)とギャヴィン(リス・エヴァンス)とのチキンレースくらい。そのオチも「帆を昇る→結果二人とも昇り切って海に飛び込み→お互いを認めあう」って言うヌルさ加減。ミュージシャンでも無いから楽器とかで戦う訳にもいかず、文科系同士だから拳を交える訳にもいかず。ここにも暴力的な臭いは無い。
リチャード・カーティスってどんなテーマで映画撮ってもこういう感じになるのかも知れない。
ロックがテーマなんだが全然ロックじゃない。
敵が強ければ強いほど最後のカタルシスがあるってのに、それが全然無い。
素材も役者も良いから最後まで観れるんだけど、生かし切れてなくってホントに勿体無い。
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