小川一水「老ヴォールの惑星」

順応性が高いという事はどういうことだろうか。
環境に合わせて自在に姿を変える訳では無いが、理解をし、変えようと、変わろうと努力をし、受け入れる。
それってとても強い事だと思うし、生きるという事はそういう事なんだろう。

 



【スポンサーリンク】


 
 

老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
小川 一水

早川書房
売り上げランキング : 181503

Amazonで詳しく見る
小川一水の初期短編集「老ヴォールの惑星」に様々な存在が登場する。
地下の巨大な洞窟に幽閉される教師、探査に向かう宇宙船の乗組員。
墜落して海の上を漂うパイロット、ジェット気流の中で仲間を食べる事で命を繋ぐ生物。
どれもさまざまな存在を描き、その与えられた過酷な環境を「どうやって生きるか」「適応するか」それが根底にある。

「ギャルナフカの迷宮」では地下の巨大な洞窟型の牢獄に閉じ込められる教師が主人公。
外に出る手段はまずない。
洞窟で生きるしかないが、食料も水も決められた場所に自動で湧き出し、生えるが、最低限しかない。
閉じ込められた他の“囚人”は石を持ってお互いを殺したり奪ったり、疑心暗鬼をお互いに持ち誰も信用出来ない。
しかし主人公はそんな地下に人間としての「町」や「共同体」を築こうとする。


「老ヴォールの惑星」では巨大な水晶体を持つ生物が主人公。
激しいジェット気流に適応した奇妙な生き物(文庫の表紙に書かれているのがそのイメージ)。
記憶や経験を伝達し、個体が死滅しても記憶と経験は引き継がれていく。
ある時、巨大な隕石が生物たちの住む惑星に落ちてくると知り生物たちは種を存続させるための手段を講じようとする。


「幸せになる箱舟」では謎の現象を探る為に、宇宙人とのファーストコンタクトを試みる主人公ら。
しかしそこにあったのは...。
あまり書くとネタバレになってしまうので書かないが
「幸せに生きるとは何か?」
「現実とは?」
そういうお話。


最後の「漂った男」は陸地の無い未開拓の惑星に落ちたパイロットが主人公。
パイロットは救難要請をして最初は甘く考えているが、やがて惑星は広すぎて未開拓であり、目標物も無く発見される確率はとても少なく帰れないという事実に直面する。
しかし惑星の表面を覆う水のようなものには栄養価があり、死ぬことは無い。
逆に言えば死なないまま、救助されないまま漂い続ける。
唯一の連絡手段である無線機で話は出来るが、声が聞こえ、話せるのに誰とも会えないと言う状況。
ただ生き続けるだけの孤独な監獄。



文明、種の存続、現実と幸せ、そして生きる意味。
それぞれの話には一貫して「生きていく事」に対する問いかけと答えがある。
科学を前提にしたあり得ない話を描くSF、ではなくSFによって「生きるとは何か」というテーマを描いた一作。
面白いので是非ご一読。