芝村裕吏「この空のまもり」を読んで考えるリテラシー

この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)この空のまもり (ハヤカワ文庫JA)
芝村裕吏

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「この空のまもり」を読み終わった。
愛国主義とか右とか左とか出てくるけど単純に近未来SFとして面白かったし、今のネットの世界のメタファーでもあるんだろう地続きの未来。現実世界に侵食したレイヤーとしての拡張されたセカイ。
セカイカメラとか電脳メガネとか。

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メガネやスマホのレンズ越しに現実世界に重なり合って見える位置情報と結びついた電子データ。
とあるレストランをレンズで覗いてみるとその店の評価や評判が、タグとして張り付いて見える。
空にフワフワ浮かんでる吹き出し状のタグ。
食べログ検索しなくてもその場ですぐに情報が判る。
現実に重なり合うもう一つの現実。
情報を可視化し、現実に重ねる事で現実の物理世界に情報を付与する拡張現実(以下AR)。


主人公の翼は、現実世界ではニートだがネット世界の架空政府で架空防衛大臣をやってる。
現実世界の政府の旧来的なやり方に不満を持つ人間で結成された架空政府。
外国機が領空侵犯し大空に張り付けた反日のタグ。
誹謗中傷やヘイトスピーチ。それらがタグとして可視化されてあちこちに貼られている。
現実の政府は「見なければ問題は無い」として対処をしない。そこで架空政府は一斉に軍事行動(勿論すべて架空の)を起こし一斉に誹謗中傷のタグや外国に付けられたタグを剥がす。
その成果は現実世界でも話題となり、愛国主義が盛り上がりやがてデモへと発展し...と言ったお話。


お話自体はそれほど壮大でも無くて、一つの事件が切っ掛けで事件が起こって。
そこまでなんすよね。普通だったら更にもうひと波瀾ありそうなボリューム。
翼の幼馴染との悲喜こもごもとかモテとか、なんかそーいうディテールの積み重ねが多い。


「愛国」とか出てくるんだが、外国人排斥の右翼思想では無くって、日本に住んでて日本に溶け込んでりゃ日本人で良いし日本と言う自分らの国をまず守らなきゃが第一にあって、右翼なんだか左翼なんだかよく判らないがかなりリベラルな愛国が中心にある行動原理。
いわゆるデモとか騒乱を起こす「愛国」を叫ぶ人々は悪として描かれて、それらに対しても立ち向かう。
立ち向かうまでに幼馴染とのいちゃつきがある訳だけれども。
昨日のサッカー買った後の渋谷とか見てるとね、あーいう
「なんかわからんけど騒げりゃいい」
「日ごろの不満をこの際、鬱憤晴らししよう」

みたいなね。中国のデモとか騒乱を見てて
「まぁ、あの国もガス抜きが必要だし、そもそも民度がね...」
なんて判った風に言っても、この国だって民度はどうなんだと。


色々と見方はあると思うんだが、今のインターネットの誹謗中傷の実態を見てると、もしGoogleGrassだかが安価で手軽な、今のタブレットみたいになって、ARが実際広まってくればルールが無いまま拡張したAR世界も同じ道を当然辿るし、実際今も半分は悪意で出来てるのがネットの実態だろう。
パクリ放題、無料当たり前、違法DLは横行し、罪の意識も無いから電子書籍もダウンロードしまくり。
結果、現実世界で逮捕者が出るまでやってる事が犯罪なのかすら理解してない。
割れ厨がゲーム会社の社長に煽りメンション飛ばしまくった結果、Twitterの更新が無くなった、ってのもありましたっけ(何があったんでしょうねぇ、彼に)。
この作品なら「架空政府」っていう自治団体的な存在が出来て、ルール作りも出来てたりするけど、実際の現実はいつまでたってもルールや思考がネットに追いつかないまま広がり続けてる。
リテラシー教育なんて受けずに成長して、全てのルールを自主トレで得ていくネットじゃあバカッターも仕方が無いんだろう。
いつになったらネット世界でのルールは確定するんですかね。
国境すら無いし、統一ルールなんて永遠に無理なのかも知れんけれど。
結局、個人のリテラシー次第か。
未来は暗いねぇ...。


今のネット世界そのまま現実に拡張した世界で、ネットの悪意と戦う近未来SF。
読みやすかったし面白くて、結構一気に読めたんでおススメ。
今ならKindleで299円とかなり安くなってる(中古の文庫で買っても240円だし送料考えりゃあKindleが一番安い)ので、とりあえず買っといて積読が良いと思う 笑

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