小川一水「天冥の標Ⅳ 機械じかけの子息たち: 4」
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「わたくしたち市民は、次代の社会をになうべき同胞が、社会の一員として敬愛され、かつ、良い環境のなかで心身ともに健やかに成長することをねがうものです。麗しかれかし。潔かるべし」ようやく読み終わった四巻。
――純潔(チェイスト)と遵法(ロウフル)が唱和する。
「人を守りなさい、人に従いなさい、人から生きる許しを得なさい。そして性愛の奉 仕をもって人に喜ばれなさい」
――かつて大師父は仰せられた。そして少年が目覚めたとき、すべては始まる
他の巻より圧倒的に時間を食ったのは単純に個人的な趣味嗜好で、昔っからエロ描写とか官能とかを活字に求めてないので感覚的にそれが延々続くと
『うぉー、まだエロなのかー?!』
って言うナチュラルな抵抗があるから。
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物語は、人間に対して性的に奉仕する為に造られたアンドロイド≪恋人たち≫の娼館惑星ハニカムが舞台。
人間の性的欲望をかなえる為の数千体のアンドロイドが生活する世界。
キリアンという≪救世群≫の若者が気づくとそんなハニカムにいて、延々と性的な事が続いて行くわけですね、これが。
何でかっつーと≪恋人たち≫は、性的行為の果てにあると言う≪混爾(マージ)≫とやら言う概念を求めていて、それが何かはよくわからないが滅びつつある≪恋人たち≫を救う為にはそれが必要なのだとか。
で、まぁ、だから延々絡みがある。
真言密教立川流ってのがある。
立川流の真髄は性交によって男女が真言宗の本尊、大日如来と一体になることである。この点において、「女性は穢れた存在であり、仏にはなれない」と説いていた既存の宗派と異なるwikiにあるように男女の性交によって解脱に至ると言う教えは独特で、かつて高野山に弾圧され経典なんかは焚書されて、今はほぼ残ってないんだそうで。
男女の性交によって種の存続するのは生物として自明の理で、交合が汚れた行為である、っていう宗教によくあるストイックな考えは実は歪んでる一面もあるわけですね。
さて、ところが≪恋人たち≫は、アンドロイドだからいくら交わったとしても子孫は出来ない。
ところが性的な奉仕はする。
種の存続から切り離されて人間の快楽の為に存在し、それをレゾンデートルにする≪恋人たち≫という存在。
この存在がこのあとどーいう役割を示すのかわかりませんが、ウイルスを持つがその血液製剤の為に社会より隔離される≪救世群≫と、アンドロイド≪恋人たち≫、そして呼吸を必要としない≪酸素いらず≫、謎の身体を持たない情報生命体≪非展開体≫。
人と共に居るが人と違うそれぞれの存在がそれぞれに絡み合いストーリーは展開していく。
今回は完全に官能小説になってたけどもこの“天冥の標”は、毎回その手の描写があったり、あと宗教なんかもあって、どうにもその辺りの『種の存続』とか『神』とか言うものを意識させられる構造になってる気がする。
『われわれはどこから来たのか
われわれは何者か
われわれはどこへ行くのか』
ゴーギャンの油絵のタイトルを思い出す。
物語は中盤戦。
次巻は農家の風景からスタート。
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