柴田ヨクサル「ハチワンダイバー 29巻」読んだ

ハチワンダイバー 29 (ヤングジャンプコミックス)ハチワンダイバー 29 (ヤングジャンプコミックス)
柴田 ヨクサル

集英社

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そよと卑弥呼、谷生の将棋を受け継ぐ最強姉妹の対決に決着が!! そして、鬼将会壊滅を狙い地下で戦う斬野たちの前にジョンス・リーが立ちはだかる!! 命を削る頭脳戦と肉弾戦が同時並行に巻き起こるスリル全開の29巻!!

もう29巻か。
2006年から始まってまだやってる。
エアマスターも長かったけどこれも長いっすねぇ。

しかし面白い。
ここしばらくの中で一番の出来じゃないだろうか。
ハチワンで駆使されてる色々なテクニックに付いては何度か書いているんだけれども、改めて。
まず中静そのvs卑弥呼。
ここでのスナイパーの超近距離での撃ち合い。
こう言う描写で有名なのは福本伸行だろう。
「今にも落ちそうな吊り橋の上を」
と語り手が語れば、主人公が吊り橋の上を渡っている様子が描かれる。心情、心理が、表現する具体的な比喩が画として描かれて読者に示される。
今回の場合は、その一手一手がスナイパーライフルでの狙撃に例えられてる。


続いて今回はジョンス・リーvsかなしいいろやねん(皆口由紀)の対決。
深道ランキング1、2位対決であり、因縁の対決。
出会った直後、ジョンスが皆口にいきなり
「牛丼屋で頼んだ牛丼ツユだくがツユだくじゃなかったら怒るか?」
牛丼ツユだくの話を始める。
このセリフだけで1ページまるまる。
「やんわり怒るわ」
「だよな」

ここまでで2ページ。
怒鳴ってるわけでもなく、話す表情も平然としてる。
何気ない会話。
裏にある緊張感と圧力をセリフの大きさで表現してる。
「つまり人間なんてものはアホ程強くなったところで何も変わらないって事だ」
「その通りよ」

構えるジョンスと皆口が同じコマで相対する。
戦闘態勢で構えるジョンスと立ってる皆口。
皆口の場合は、立ち姿が戦闘態勢。
一瞬間があって、ジョンスの震脚でコンクリ床を破壊して戦闘開始。

それと同時進行で行われるハチワン菅田vs名人鈴木八段。
地下で血で血を洗う戦いが行われその余波が会場を揺らしても微動だにしない集中力で打ち合う。
ハチワンが面白いのは将棋漫画でありながら格闘漫画のノウハウがそこに使われ、精神での、知力の戦いの筈なのにそこに血が流れて肉体的なダメージがある。
アニメ「遊戯王」でよくカードでの攻撃でドカドカやり合って、闇のゲームでもないのにダメージ食らって膝をついたり痛そうに「ぐわっ!」とか声をあげたり、そー言う
「実際に無い筈のダメージを受けている描写を挟む事で淡々としたカードゲームのダメージを描写してみせる」
構造として同じ。
あくまでも比喩表現が作中の“現実”に作用し、精神的なダメージを越えて肉体的ダメージ表現になる。

ハチワンの場合、そんな精神的描写と肉体的なダメージの与え合いである格闘技が交互に描かれる事で同列で二つの争いが扱われ、命のやり取りとして戦いが行われる。
だから将棋が今ひとつよく判ってない自分なんかでも29巻まで読める仕組みになってる。

格闘戦にかつての皆口由紀やジョンスが出て来て戦うのはファンサービスって言うよりも、新たに最強の格闘家って出すよりもかつての積み上げのあるエアマスター最強のキャラを出しておく方が(エアマスター渺茫は除いて)作品としてスムースだからでしょう。いきなり訳も無く強いキャラが途端に出て来て最強の戦いをされたってなんとも思わないけど、旧作で主人公とさんざ争った最強の敵キャラが出て来て、因縁の対決をやるわけですから面白くないわけが無い。それぞれのキャラに過去の厚みがあるんだから。
エアカットターミネーターが出て来るとこなんかもエアマスター読者にはゾクゾクするシーンだったりする。


いよいよ終盤。
菅田は師匠である鈴木八段に勝たなきゃならない。
その先にある戦いを越えてボスキャラの谷生との戦いが他のキャラって訳にもいかないし、その為の説得力を蓄える為のこの連戦。格闘漫画でもそうだけどトーナメントってのは説得力なんすよね。
こんな強いキャラに勝ったから強いんだし、こんな強いキャラとこんな争いをこなしてさらに強くなったのだ、と。裏打ちがある強さの描写と積み上げた歴史が説得力を与え、力になる。
その積み上げの一番上になる最後の戦いがどうなるか、とても期待して読んでおります。