「容疑者X」と「白夜行」の献身

※ネタバレを気にするなら、以下読まなくてもいい。どうせ人生に影響は無い
今夜も「容疑者Xの献身」観てしまった。
確か四回目くらいか。

この“天才”石神の動機って言うのがこの作品のポイントで。
大抵のミステリってのはこの動機がどうでも良い部分で、崖の上でダラダラ
「これだからこうだったんだ」
なんて説明されてもハァそうですかとしか思えない。
ミステリの主体はトリックだから必ずしも動機に対してそれほどこだわらなくても良いと言うのはあるし、だからキャラが書けてないような作品でもミステリには名作が多い。逆に謎が書けてなくて動機がしっかりしてキャラが書けてるミステリはちょっと片手落ちだし。
その点「容疑者X」ってのはバランスが取れてる。
天才、って言うお題目で出て来て名ばかりの天才は多いのに石神は確かに天才然として登場する。
研究に没頭し教授として順調な道を歩む湯川と、両親の面倒を見る為に途中で研究を諦め教師になった石神と。


ところで石神の動機を考える上で思い出すのは、同じ東野圭吾の「白夜行」でしょう。
桐原亮司は、西本雪穂の言うなりに影で動き罪を繰り返す。
表の世界での西本雪穂を輝かせる為に桐原亮司は邪魔者を排除する。
桐原亮司にとってはどこまでも地獄しか無い。
太陽の下を一緒に歩くんだ、と望みながらも二人とも両手は血に塗れている。
桐原亮司の決死の献身で、西本雪穂は桐原亮司を切り捨てるわけにもいかない。
桐原亮司は雪穂の幸せを願い、でも自分の存在を尽くして破滅する。
右手に刃物を握って誰かを刺しても右手に悪いとは思わない。桐原と西本は一心同体で、だから桐原亮司を失うと雪穂は独りで力つきていった(だから新海美冬はちょっと蛇足だと思うんだが)。


生きていていい理由。
そこに居ていいと言ってくれる誰か。
本当に孤独で、誰にも認められなくて、誰にも相手にされなくて、自分が独りでしか居られなくて、もう自分がここに居る理由がなにも無い。
世界はどこまでも真っ暗闇でしかない。
そう言う時に誰かがここに居ていいと言ってくれる、そこに居て欲しいと言ってくれる。
一緒に歩こうと言ってくれる、それは愛とか恋なんて安っぽいものじゃなくって、自分と言う存在をここにとどめてくれる誰かの想いや言葉には、自分の存在をかけるだけの価値がある。
「献身」と名付けられるその心は、誰かに「尽くす」気持ちは誰かの命を奪う程の動機になり得る。
それを「愛」と呼ぶならそれは「愛」なのだろう。
しかしそれを理解されないまま、自分の中で秘めたままにしたかったからこそ、独り破滅しようとしたのに、最後に破綻して石神は叫ぶしか無い。
何の為にここまで作り上げたのか、と。
自分と言う存在を「そこに居ていい」と示してくれた親子を救うために献身を尽くし作り上げた計画が、感情によって崩壊してしまう。
結局、どこまでも天才は理解されない。

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