久慈光久「狼の口 ヴォルフスムント」
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14世紀初頭、アルプス地方。イタリアへと通じるザンクト=ゴットハルト峠には、非情な番人が守る関所があった。難攻不落をもって知られるその場所を、人々はこう呼んだ。ヴォルフスムント―――“狼の口”と。フェローズ誌に隔号連載を続けている『狼の口~ヴォルフスムント~』がいよいよ単行本化決定! 圧倒的な作画によって再現される中世人の生活様式や、鎧甲冑、鎖帷子、武器、兵器の数々……。そして、圧政者に立ち向かう市井の人々の身を賭したドラマをダイナミックに描き上げる作劇! 新人離れした超大型新人・久慈光久の、これが単行本第1巻!!
キンドルの30パーセントポイント還元セールで四巻まで一気買いした。
1巻が実質115円になってる。
沙村広明の残酷画もそうなんだけれども(「ブラッドハーレーの馬車」然り)人の命の軽さを感じる。
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戦争で死が隣り合わせで、埋葬されない死者も珍しくない時代。
今や死もパッケージされ、飽食で飢餓からも縁遠い日本でこういう“残酷”な描写を見せられると実に沁みる。
第一話。
反乱の首謀者が断首、その娘リーゼが忠誠を誓う騎士ゲオルグと共に逃走を計る。
長く美しい髪を切り、馬の糞を全身に塗り付け、従者の姿に身を窶し追っ手の目をかいくぐる。
通らなければならない峠の関所。
「狼の口」と呼ばれる。
関所の代官ヴォルフラムは簡単に変装を見抜き、二人はあっさり惨殺。
矢で射殺され、斧で断首される。
血溜まりの中、落とされた首と二人の死体が転がる。
読者は一話かけてたっぷりとリーゼとゲオルグに感情移入するように出来てる。
罪も無い娘と義にかけてそれを守ろうとする騎士と。
通常であればこの二人の逃避行で物語を描けるものをそうではなく「狼の口」という関所がいかに非情に、通り抜けようとする人間を容赦なく惨殺し、門の入口に縊り殺した死体を晒して見せしめにし、それを代官ヴォルフラムが笑いながらやってのけるか。
その残酷な様子が延々描かれる。
どの話も関所を潜ろうとしても失敗に終わり、泣き喚き、惨殺され、死体を晒される。
構造としては「必殺仕事人」を思い出す。
つまり物語の殆どで罪の無い町民らが悪人のエゴのせいで犯され殺されひどい目にあい、仕事人が登場しその恨みを晴らす。
よく「復讐は物語のテーマとして向いていない」と言われる。
個人が個人に対して復讐する物語は「復讐が復讐を産む」構造になり、正義が正義でなくなってしまう。
だから物語に向かないと言われる。
しかし必殺シリーズのように「利害関係のない第三者が代わりに復讐する」と言う構造は、視聴者からは正義に見える仕事人が実社会では悪であり、殺される悪人の親族からは悪人であり、復讐の対象者であっても復讐の連鎖を産まないという構造だからこそ成立する。
ビジネスとして金で殺しを行うプロ。
この「狼の口」では悪はヴォルフラムであり、だからこそ笑いを浮かべ峠を越えようとする人間を次々に殺す。
物語は峠を越えようとするキャラクターに感情移入し、何とか峠を越えられるように願いながら読むがその望みはあっさり裏切られ、わざわざ惨たらしくひどい方法で殺される。
そうする事でこの代官ヴォルフラムの「悪」に蓄積が増す。
何の予備知識も無く「こいつは悪いヤツなんだ」といきなり出て来る敵よりも、どのように残酷でどのようにひどいか、どれだけ憎まれる事をやって来たかが延々描かれる事で、読者の理解と蓄積は当然増す。
国と国、戦争と言う背景は正義にでも悪にでもなるが、惨殺をしてみせる代官ヴォルフラムには戦争という「正義にも悪にもなり得る」という価値観を否定して、代官ヴォルフラムによる多くの犠牲者を描く事で「復讐が復讐を産む」ことはなく、代官ヴォルフラムが絶対悪でありその打倒こそが目的、と言う構造になっている。
四巻の時点でようやく復讐が始まるか否か、と言うところ。
これから大きな犠牲の上に復讐が始まるわけですが、さてどうなって行くか。
五巻が出たら光の速度でポチりたいと思う。
ヴォルフラムをどう惨殺するのかなー?
wktkでお待ちしてます。
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