麻耶 雄嵩「貴族探偵」を読んだ

貴族探偵 (集英社文庫)
ミステリの「物語」とはジグソーパズルのようなもの。
一枚の画をわざわざバラバラにし、別の画にして読者に提示する。

物語の探偵とは、その元の画に戻すための「理由」の記号。
物語に謎があればそれを整理し、論理的思考の結果結論を導き出すのが探偵と言う「理由」であって、その「理由」に論理的思考や超絶的観察能力や洞察力、推理力などという“説得力のある理由”を付け加えることで物語の謎は、最終的に解かれ昇華する。
元の画をそのまま見せても仕方がない。
どのように戻すのか。バラバラのピースを当てはめて行くからミステリは面白い。

麻耶雄嵩の作品には、ミステリにおける「探偵」の役割は果たして何か?と言う根源的な疑問が根底にあるものが多い。

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麻耶 雄嵩

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銘探偵メルカトル鮎が物語に関わらず、最後の最後に出て来て物語を締めくくるだけだったり、あるいは真相が二転三転する事で真実とは果たして何かが漠然としたり、超絶的な最後で論理的物語の破綻すら飛び越えて見せたりする。


主人公“貴族探偵”は、貴族なので推理をしない。
推理どころか捜査もしない。
ただ女性に声をかけ、紅茶を飲み、使用人を遣う。
しかし“貴族探偵”が居らず、使用人しかいなければ物語は成立しない。
“貴族探偵”はホームズがワトソンの観察した情報と自身の知識などから仮説的推論を行うように、自分の一部として使用人を遣い事件を捜査し、事件を解決する。そのために“貴族探偵”は命令を行う。
ある種コメディめいたこの構造は、荒木飛呂彦の漫画「ジョジョ」で、本人ではなく“スタンド”と言う「目に見えない力の具現化」が本人の代わりに戦うように、“貴族探偵”はメイドや執事に操作をさせ推理をさせると考えれば理解しやすい。

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探偵は職業だが、貴族は職業ではない。
生まれつき高貴な出自で高貴な家に育ち、そして探偵を名乗る。
職業とは金を得るために行うものだが、金を必要としない貴族探偵にとっての「探偵」は趣味の範疇。
よくある「異業種探偵」は何か本業(本屋、弁護士、店員etc..)がありながら探偵をしたりするが、「貴族探偵」は貴族のために職を持たない。
無職の貴族が自分の雇人に探偵の真似ごとをやらせる。
優秀なメイドや執事は事件を解決するが、それはメイドが朝食の準備をしたり、銀食器を磨いたりするのと同レベル。
「金があれば探偵を名乗れる」
今作は「探偵」と言う存在価値を下げて見せた。


探偵がエキセントリックな分、物語は真っ当でアリバイトリックや、連続殺人や、密室殺人(未遂)などバラエティに富んでいるし、ひとつひとつが端正でロジカルに出来てる。
物語が正統派なミステリだから探偵の異物感がより一層際立つ構造になっている。


多くの「貴族」は殺されるものであって探偵ではない。
中にはプリンスザレツキーのような貴族の探偵もいるが、この「貴族探偵」は探偵を名乗りながら探偵として一切機能しないただの記号としての有名無実な「探偵」。
もし「貴族」でなければ探偵ですらなくなる。
貴族として手足になる家人を使うから自称「探偵」を名乗れるに過ぎない。
「貴族」であり「探偵」なのではない。
二つが不可分な「貴族探偵」

続編も読まねば。
貴族探偵対女探偵