初音ミクxHIPHOP「MIKU HOP」が本当にヒップホップなのか考えてみた

ニコニコ動画で公開されている初音ミクがヒップホップを歌う「ミックホップ」と言うジャンルの曲から5曲をセレクトしたEP「MIKU HOP」がTWITTERを中心にバズっているのだそうです。以前にウチでも記事にしました


マスタリングを担当されたという方がそんなEPのバズり方について考察をされておられるのですが、
「ミックホップ」のBuzzをマーケティング的視点で考えてみた。 - What a Wonderful World

音楽面での批判コメント(黒くない、新しくない等、主にヒップホップサイドからの指摘)が上がるようになってきます。また、一部のボカロPさん達から、「ミックホップ」のタグや、名称、作品の紹介文などに違和感、不快感を表明するツイートがチラホラと。(これは「ミックホップ」という言葉の成立過程に原因があるようですが、今回の話の本筋とは直接関係がないので割愛します。)


もちろん、これらの批判だけではなく、賞賛や擁護のコメント、全く別の方向からの賛否も多々ありましたが、各発信者のツイッター上での影響力、フォロワー数まで含めて考えると、批判的な声の方が大きかったように思われます。言うなればプチ炎上状態にあったと言えるのではないでしょうか

”プチ炎上状態”とおっしゃられるように批判が多く見受けられたのだそうです。

個人的には「面白いんじゃないかな」という感想だったのですが、
この批判を深く考えてみますと、ヒップホップ及び初音ミク、そして「MIKU HOP」という試みに対する捉え方の錯誤が見えてきます。

少し考えてみましょう。

ラップの二つの方向性

ラップには、大まかに方向性が2つあります。

ひとつはBEEF(アーティスト間の論争、(非物理的な)喧嘩の事)を含むゴシップ的な要素のあるツールとしての面の強いラップ。
こちらは音楽性の革新を必ずしも必要としません。
関係性、個人のフローなどのテクニックやリリックの中身が重視されるからです。

ギャングスタ~などが、こちらになります。
イメージ:金の鎖じゃらじゃら、でかい指輪、アディダスのジャージ
ここでは、仮にこちらを”黒い”ラップとする。


一方、ATCQ(ア・トライブ・コールド・クエスト)などに始まるパーティ、ディスコサウンドや、ロック色の強いデフ・ジャムレーベルなどに見られる音楽性を重視した音。
トラックにJAZZを取り込んだQ-TIP(ex.ATCQ)やBLACKSHEEP(ネイティブタン)ナードなデラソウル、元パンクバンドのビースティ、パブリックエネミーなどなど。
こちらは音楽的なラップ

Beastie Boys - Three MC's and One DJ - YouTube
最近で言えば、カニエ・ウエストもこちらに入りますね。
ですからロックリスナーにも聴きやすい。

厳密にいえばいろいろありますが、ここではざっくり
「同じラップとはいえ違う方向性があるんだ」
と捉えておいてください。

ガラパゴスな日本

日本にラップが入ってきて随分経ちます。

もちろん日本にDISやBEEFなどという文化はなく、あくまでも音楽としてEAST ENDxYURI「DA.YO.NE」やパーティーサウンドでポップな音楽的なラップリップスライムなどがヒットしメジャーシーンで認知され、その一方原義的な”黒い”ラップやヒップホップカルチャーは、日本でもアングラとして広がり、ラップバトルなども開かれ(その様子がYoutubeに上がってる)ネットでも #FightclubJp などでシーンが活発でとても興味深い。
#FightClubJP - Togetterまとめ

DJ YANATAKE・宇多丸 2014年上半期日本語ラップ最新事情を語り合う



ヒットしたドラゴンアッシュの「Grateful Days」
実際はロックにラップを乗せた「ミクスチャー」。
音だけなら、レッチリRATMに近い。

(PV) Dragon Ash - Grateful Days 投稿者 Ichimaru
「東京生まれ HIPHOP育ち/悪そなヤツはだいたい友だち」
というフレーズは印象的で、あのフレーズと原義的な”黒い”ギャングスタラップのイメージが結び付き「日本人の世間的なラップのイメージ」が完成してる。
(でもスチャ「今夜はブギーバック」は、スチャのラップにオザケンの歌を乗せた、と言う理解がいいのでしょうね)

ゆるふわ文化系女子ラップ

「ゆるふわ文化系女子ラップ」というものが最近ございまして、以下に詳しいのですが

吉田豪文化系女子がラップを始めたっていう感じ。最近になって(笑)。突然、同時多発的に。
(中略)
吉田豪)そうですね。なんだろうな?90年代だと女子がラップをやるにしても結構ハードコアなギャングスタスタイルでやらなきゃ!みたいな感じがあったじゃないですか。性別なんか関係ない感じになったりする感じに。ぜんぜん違うんですね。最近、ラップするアイドルがすごい増えている。アイドルラップグループも増えたし。

松本ともこ)アイドル?

吉田豪)で、アイドルがラップの曲をやるっていうのもすごい増えて。昔だったら、『東京パフォーマンスドールがラップを!?』みたいな感じでテンション上がってたのが、すんごい普通になって。それと同時にラップに興味を持った普通の女の子がウィスパーボイスで肩肘張らずに歌うアーティストみたいな感じも増えてきてて。

松本ともこ)あの、張り切り過ぎないんですね。

吉田豪)で、アーティストとアイドルの境界線も最近すごい曖昧で。曲、自分で作っていないアイドルとアーティストの違いってなんだろう?みたいな感じじゃないですか。

http://miyearnzzlabo.com/archives/16860

「女子高生がラップ始めちゃいました」みたいなポップをつけられてヴィレッジバンガード辺りに並んでるイメージ。
サブカル文脈的にはとても面白いジャンルではある。
ガーリーでアンニュイで内省的なセカイ観が強い。

daoko、泉まくらだとか。
エレクトロだがcharisma.comも(ゆるふわではないが)文化系ラップOL

ラップアイドルのライムベリーだとか。
他にもアイドルがラップを歌ってる例は枚挙にいとまがないし、ラップを取り入れていることが当たり前のようになってきている(ももクロ「堂々平和宣言」)。


トラックは、ヒップホップ的なサンプリングだけれど、女子が「半径5mのセカイ」を歌う。
これは”黒い”ラップからすれば当然「そんなもんラップじゃねー」なのは当たり前。

原義的なマッチョさを剥ぎ取り、こういうサブカル的なニュアンスの強いカルチャーが発展するのも日本らしい。
厳密にいえば「なんちゃってラップ」と言われるのだろう。


いくつかニコニコ動画で「ミックホップ」タグの作品を聴いたのだけれど、

この辺りは

音として泉まくらなんかをイメージさせるし、他にも多くの作品は(音も歌詞も含め)ギャングスタな”黒い”ラップではなく、どれに一番近いかと言われれば「ゆるふわ文化系女子ラップ」やオシャレでジャジーなチルアウト系に近い音を鳴らしてる。

そりゃあラップ聴きからすれば、違和感があって当たり前。
リリックのクオリティやフローのレベル、トラックのサンプリング構成が高いわけでもない。
(ジャズにもなりきれずポップス感が混ざる感じも香ばしい)

MIKU HOPはヒップホップか否か

初音ミクxヒップホップ=ミックホップ

実はこれっておかしい。

初音ミクにロックを歌わせミックロックとは言わない。
「ロックっぽい初音ミクの曲」として認識されてる。

初音ミクがポップスを歌わせミックポップとは言わない。
初音ミクの曲」として認識されてる。

f:id:paradisecircus69:20140606092038j:plain
※ざっと作ったらッヒップホップの「サンプリング(DJ)」が抜けました

概念的に「初音ミク」は大ジャンルで、その下に小ジャンルの「ロック的」「ポップス的」「ヒップホップ(MIKU HOP)」等々というものがある。
これは「初音ミク」というジャンルがさまざまな既存の音楽の要素を初音ミクと言う発明(ツール)をベースに発展したからこうなる。

一方、ヒップホップと言うのは大ジャンルのカルチャーで、その下にラップ、ダンス、ストリートアート、DJ(サンプリング)などを含む。
こういうジャンルの概念は、たとえばジャズミュージシャンのロバート・グラスパーがモスデフを迎えて演奏しようとそれはヒップホップの文脈ではなく「ヒップホップの要素を取り込んだジャズ」として語られるのに近い。

Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)
柳樂 光隆

シンコーミュージック
売り上げランキング : 74809

Amazonで詳しく見る


だけれども「ヒップホップ風初音ミク」ではなく「MIKU HOP」と言ってしまうから
初音ミクがラップを歌うだと?」
「ヒップホップなめとんのか?」
「全然黒くねぇ」
「なんだこの軟弱な音は」

と誤解され捉えられやすい。


「MIKU HOP」は、あくまで「初音ミク」という大ジャンルの下の小ジャンルであってヒップホップの文脈ではなく、だから文化を侵略したわけでも何でもない。
音が革新的である必要も黒い必要もない。
あくまでも「初音ミク」と言うツールを使い「初音ミク」という文化圏においてジャジーだったり、ゆるふわ文化系女子風だったりというヒップホップの音を鳴らしているのであって、それを「こんなのはラップじゃない」と言われればその通り。

初音ミクはどんな「○○風」音楽を鳴らそうが「初音ミク」だった。
しかしここでヒップホップを取り込んで「MIKU HOP」と言い始めた。

「MIKU HOP」は、マカロニウエスタン
本物、ニセモノ議論すら成立しない「それはそれ、これはこれ」。
いいものはいいしダメなものはダメ、それだけ。
音や方法が、原義に沿ってるかどうかを語る文脈には無い。

最後に

「MIKU HOP」が今後どう展開していくのか知りませんが、こういう文化圏の違いを越えた批判を受けつつもジャンルが活気づいてテクニックが上がり、ラップの歌唱すらも不気味の谷を越えて調教できるようになれば面白い展開をしていくのだろうと思う。
これまでラップを聴かなかった人が「聴きやすいから」など興味を持てる入り口になれば面白い。

あくまでも「初音ミク」の中で鳴らしていくのか、それとも「MIKU HOP」と言うものを確立していくのか。
タダの一過性のブームで終わるのか、それとも文化を定着させられるか。
影からこっそり見ていきたいと思っております。


あなたはどう思いますか?

初音ミク V3