中村あゆみ 翼の折れたエンジェル - YouTube
翼の折れたおじさん
もう昔のように日常生活から気持ちを連れ去ってくれ、ワクワクハラハラすることを映画に求めることは不可能なのだろうか。色んな経験を積んでしまった僕には、新しい世界は開けないのだろうか。あの未知なる感覚を追い求めて未だに映画館には足繁く通っているが、映画が終わり照明がつけばすぐ現実世界にすぐ馴染み、社会で働くマシーンへと変化する。そんな自分が悲しい。
もし、オレが~増田、だったら~♪
歳をとると、どんどん刺激に飽きてくる。
じっくり染みる作品の方を好むようになってくる。
音楽だって若いころは縦乗りロックの方が良かったのに、気づけばまったりと聴けるジャズや歌謡曲や、遂には演歌に至る。
速いテンポの漫才より、細部を作り込んだ落語に魅力を感じ、
カロリー満載脂っこい洋食より、あっさり滋味と深みの和食に惹かれたり、
映画も若いころは異星人が襲ってくるようなハリウッド超大作を楽しめるが、いつの間にかゆったりとした心に染みる作品を好む嗜好に変化するのは自然なことだろう。
そんなまったりと染みる作品を以下に挙げてみる。
1.ストレイト・ストーリー
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キ○ガイのデヴィッド・リンチなのにとても染みる。
ローラ・ダーンが暴れるわけでも、デニス・ホッパーがベルベット生地を嗅ぎながらハァハァ言うわけでもない。
ただひたすら爺さんが、560キロ離れた場所に住む長い間音信不通の兄のところへ時速8kmの芝刈り機に乗って行こうとするロードムービー。
速度の速い電車や車では見過ごしてしまう風景や自然。
空気や人々との出会いが、のろのろとしか進めない芝刈り機だからこそ見える。
ゆっくりと進む芝刈り機は、主人公である故 リチャード・ファーンズワースの暗喩。
「年をとって最悪なのは?」
「最悪なのは若い頃のことを覚えていることだ」
もう残りの人生は見えている、先は長くない。
だからこそゆっくりと、若いころのように一分一秒にあくせく焦ることもなく進む。
空気や風景や人々や世界をひとつひとつ見やりつつ。
「ストレイト・ストーリー」予告編 - YouTube
2.北京バイオリン
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炭鉱で働く田舎者だけれど、真っすぐな父親が息子のバイオリンの才能を信じて応援し続ける。
地方と都会と。
照明に照らされた舞台の上に息子を送り込むため、汗を流しひたすら支える父の姿。
父親の視点が、自分の視点と徐々に重なって感情移入してしまう。
あ、自分は独身ですが(婚外子もいません)。
「變臉 この櫂に手をそえて」にしようかと思ったらDVDも配信もないと言う……。
名作なのにVHSしかないなんて。
3.推手
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息子を頼ってアメリカにやってきた朱老人。
息子の嫁はアメリカ人で、朱老人は英語が話せないから意思の疎通がうまくいかず嫁舅問題に。
言葉も通じない異国の地で、老人が孤独を感じながら、自立しようとするが失敗して大騒動になったり、なかなか大変。
タイトルの推手とは、向かい合う二人が構え、手の甲をくっつけ、押しながらそれぞれにバランスを上手くとりあう練習法で、まさにコミュニケーションの問題の暗喩になっている。言葉が通じなくても手と手を合わせあうことで通じることもある。
そこまでメジャーな作品ではないのだけれどかなりの名作(アン・リーの初期作は、どれも名作揃い)。
4.桜桃の味
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「うなぎ」よりこっちの方が好きですが。
主人公は自殺志願者。
薬を飲み穴の中に横たわり、死んだ後に自分を埋めてくれる人を探して車であちこちさまよう。
しかしさまざまな人に出会い、自分をとりまく風景を改めて見てその意志が徐々に変わっていく。
自殺志願者を主人公にしながら「生きるとは何か?」を描いた、これまた名作。
キアロスタミは「友だちのうちはどこ? 」も名作。
A Taste of Cherry Trailer - YouTube
5.転々
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三木聡らしい小ネタ満載ながら、何かを描いているようで何にも描いておらず、ひたすらオダジョーと変な髪形の三浦友和が散歩するだけという、なのになんだか染みてくる変わったロードムービー風散歩映画。
これを見てると何の目的もなくフラフラ散歩に行きたくなる。
そういう「無駄な時間も素敵なんだ」と思わせてくれるだけでもいい映画。
「転々」予告編 - YouTube
まとめ
時間の流れ方は徐々に遅くなり、体力も頭の回転も落ちてくる。
嫌でも応でも人生は続き、やがて終わる。
流れていく時間は不可逆で、気づけば人生の折り返しがそろそろ見え、今までの何十年かの人生で自分が残してきたもの積み上げてきたものを振り返り、これからの人生で残せそうなことを考え、あるいは終了まで両手足で数えられるくらいになったとき、自分がこれまで生きてきた人生や、残りの人生について、少し考えたり、あるいは考えたくなかったリ。
映画ってのは現実を忘れる娯楽としてのモラトリアムでもあるし、あるいは自分の残りの人生を考える上でのヒントになったりもするんだろう。
2014年も残り4カ月と半分。
もうすぐ夏が終わり、秋が始まる。
心残り、親子関係、老いと人生、日常の何気ない風景。
刺激が少なくても、まったりと、改めて自分を含む世界を見なおして見るのもいいんじゃないだろうか。