西尾維新「掟上今日子の挑戦状」
完全犯罪を目指さない男・鯨井。彼が「アリバイ証言」に選んだ美女は、最悪にも一日しかその記憶がもたない白髪の名探偵だった……。忘却探偵が殺人事件の証人となる「掟上今日子のアリバイ証言」ほか、西尾維新の筆が冴えわたる忘却探偵シリーズ最新短編集!
なぜかガッキー主演でドラマ化が決定した”忘却探偵”掟上今日子の最新短編集。
「備忘録」「推薦文」に続く三冊目。
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主人公はもちろん、記憶が1日しか持たない(寝ると記憶がリセットされてしまう)”忘却探偵”掟上今日子。
そんな今日子さんが様々な事件に巻き込まれ、首をつっこみ、報酬をかっさらう(今日子さんは銭ゲバである)。
今回の内容は、
1.掟上今日子のアリバイ証言……(アリバイ)
2.掟上今日子の密室講義……(密室)
3.掟上今日子の暗号表……(暗号)
ミステリの王道三つの事件に今日子さんが立ち向かうという中身。
”掟上今日子のアリバイ証言”では倒述形式で犯人の視点からアリバイ工作の相手に今日子さんが選ばれ事件に巻き込まれる。
犯人のアリバイトリックは果たして?といった中身。
”掟上今日子の密室講義”ではミステリの定番、密室事件が発生。
作中、今日子さんの密室講義が展開されるけれどもこれはJ・D・カーのギデオン・フェル博士の密室講義に近いもの*1。
ちなみにフェル博士の密室講義は、
・偶発的な出来事が重なり、殺人のようになってしまった
・外部からの何らかにより被害者が死ぬように追い込む
・室内に隠された何らかの仕掛けによるもの
・殺人に見せかけた自殺
・すでに殺害した人物が生きているように見せかける
・室外からの犯行を、室内での犯行に見せかける
・未だ生きている人物を死んだように見せかけ、のちに殺害する
となっている。
三話目の暗号に関しても(ミステリ的な)暗号理論を展開。
とはいえ、かなり余談的な暗号論になってる。
西尾維新作品は、いつも思うのだけれど、キャラ・空気を描く分冗長になり、ミステリとしての密度は薄くなる。
「難民探偵」の時は一冊まるまる一つの事件で終わったくらい(普通の作家なら短編でやるところを)。
にしてもミステリ的に迷う要素がほとんどない。
1話目は倒述なので容疑者ははっきりしてる、
2話目は密室だが容疑者が少なすぎる、
3話目も倒述でこれまた犯人はわかる。
ということでほぼフーダニット(誰が犯人か?)はなく、ハウダニット(どうやって犯行を行ったのか?)に集約される。
とはいえ密室トリックもかなりアレでして、途中でわかるのはご愛嬌。
今日子さんがすごいというか、あれで気づかない警察ってちょっと……。
今日子さんの特殊なキャラの魅力に尽きる作品なので、やはりミステリというよりキャラクター小説的な楽しみ方が正しいのだと思う。
ミステリとして、トリックメインで読むと今ひとつ。
あくまでもキャラを際立たせる装置としてのミステリだと割り切る方がいい。
ラノベmeetsミステリ的な(そんなレーベルも多いが)面白さで読ませる一冊。
リーダビリティが高いので、軽めのミステリが好きな人にいいかもしれない。
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メガネはまだしも白髪のガッキー……すでにあまり期待できない気しかしないのだけれども。
せめてノイタミナ枠でアニメ化すれば……。
【関連過去記事】
azanaerunawano5to4.hatenablog.com
*1:三つの棺 1935