AIと人間 戦いの歴史
アルファ碁のニュースが毎日盛り上がっていますが、AIvs人間の戦いは昨日今日始まったわけじゃあない。
少しこれまでの歴史を振り返ってみる。
幾つものボードゲームにおいて繰り広げられたAIと人間の対決。
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チェッカー
チェッカーのチャンピオン マリオン・ティンズリー。
チェッカー界最強の存在であり、プロとして戦った45年間で敗北は5回のみ。
そんなティンズリーは1994年、周囲の反対を押し切りジョナサン・シェーファーの開発したシヌークと対決。
しかし敗北を喫する。
ティンズリーは再度シヌークと対戦し引き分けになるも、マリオン・ティンズリーは体調を崩し1995年永眠。
その後の研究によりチェッカーはお互いが最善手を打てば引き分けになるということが明らかになった。
市松模様の盤上で黒と赤などの丸い駒を斜めに動かし、相手の駒を飛び越して取り合うゲーム「チェッカー」を完全解明したと、カナダ・アルバータ大の研究チームが米科学誌サイエンス(電子版)に19日発表した。
平均50台のコンピューターを18年動かし続けて得た結論は、最善手で差し続ければ必ず引き分けになるというもの。
決して負けない対戦ソフトが可能になったが、より複雑なチェスや将棋の完全解明にはかなり時間がかかりそうだ。
【印刷用】「チェッカー」を完全解明/最善手続けば必ず引き分け | 全国ニュース | 四国新聞社
宮内悠介「盤上の夜」では、そんなティンズリーのエピソードを短編小説にしてる。
2013年発売当時のインタビューから以下を抜粋。
宮内 ティンズリーという人は、私たちが言ってほしいことを、ズバズバ言ってくれる人物なので、題材にする側としてはとても助かりました。
草場 「私は負けない。コンピュータをプログラムしたのは人間だが、私をプログラムしたのは神だから」という名文句なんて、うまく決まってますね。
宮内 まるで引用されることを見越したかのようなセリフなんですよね(笑)。
草場 「神」を垣間見たのだろう、という印象がありますね。ゲームを研究していると「完全読み」のことを「神」と言うわけですが、ティック・タック・トゥ(三目並べ、マルバツゲーム)だと、我々も神になれるんです(笑)。
岡和田 必勝パターンが完全に読めるから。さすがに三目並べの定石は、アブストラクト(抽象)ゲームが不得手な私でもわかります(笑)。
草場 ところが、目の数が増えると、幾何級数的に手数が増え、パターンが読み切れなくなるんです。
囲碁だとわかりづらいので、同じ盤を使うオセロで言えば、6路盤(6×6マスのボード)のオセロは、後手必勝だと解明されました。しかし、8路盤(8×8マスのボード)のオセロは、6路盤が解明されてから10年も経つのに、いまだ必勝法が解明されていません。6路盤と8路盤の間には大きな溝があって、急に難しくなるんです。
第33回日本SF大賞受賞記念インタビュー――宮内悠介『盤上の夜』を語り尽くす!/宮内悠介(第33回日本SF大賞受賞作家)×草場純(ゲーム研究家)×岡和田晃(SF評論家/ゲームライター)(3/4)[2013年3月]|Science Fiction|Webミステリーズ!
コンピューターの解析でも囲碁はまだまだ難しい、と言っていたのが2013年。
まさか三年後にディープラーニングが囲碁の世界チャンピオンを倒すとは。
そしてAlphaGoが先手の第1局。当たり前のように初手に星を打っていたけど、一日百万局(だっけ)を学習して、それでも初手が星であったというのは、「よかった人類間違ってなかった」と。
— 宮内悠介 (@chocolatechnica) 2016年3月12日
チェス
チェスでの人間vsコンピューターの歴史は古い。
まずディプブルーの前身となるチェス専用スパコン ディープソートが、グランドマスターのベント・ラーセンを1988年に破っている。
しかし翌89年には、ガルリ・カスパロフがディープソートに惜勝。
そしてティンズリー死去の翌年1996年。
チェスチャンピオンのガルリ・カスパロフがディープブルーと対戦。
ディープブルーは評価関数を使い一秒間に二億手を読む。
第一戦では4勝2敗でカスパロフが、
翌1997年の第二戦では2勝1敗3分けでディープブルーが勝利した。
2002年、ウラジーミル・クラムニクとディープ・フリッツ戦は4勝4負の引き分け。
wired.jp
さらに2003年にはディープジュニアとカスパロフが対戦。
1勝1敗4分け。
wired.jp
2003年には、X3Dフリッツとカスパロフが対戦。1勝1敗2分け
2006年にはディープフリッツとウラジーミル・クラムニクが対戦するも2勝4分けでクラムニクが敗北を喫している。
囲碁
人間vs囲碁コンピューターの歴史が途端に変わったのはモンテカルロ法の導入にあると言われる。
himazines.com
趙治勲先生はコンピュータ囲碁との対局は今回が初めてだそうです。事前にコンピュータ囲碁同士の棋譜を見た感想は「コンピュータ囲碁は一局の間に波がある」とのこと。
これはモンテカルロ法を使ったコンピュータ囲碁の特徴になりますが、優勢になると緩い手(すごく手堅い手)を打ちに行くという特徴があります。それを棋譜から感じたのでしょう。
(中略)
前大会にてコンピュータ囲碁との対局経験のある依田先生曰く、この時点で「白は勝てない」とのこと。コンピュータ囲碁を相手にする場合は大風呂敷を広げて攻め込ませるくらいじゃないとダメらしい。
・吉原先生「趙先生に教えてあげなかったんですか?」
・依田先生「そこまでの仲じゃない」
・会場「笑」
これでわかりますが、モンテカルロ法を採用したプログラムは確かに強いけれど、コンピュータ碁特有の打ち筋と言うのが発生してしまい、プロはそれを学習して対応できる。
公式戦通算1400勝 いつも赤ら顔の趙治勲は、Crazy Stoneに対して中押し勝ち、dolbaramに中押し負け。
これが去年3月のこと。
2016年1月、ディープラーニングを採用したアルファ碁が登場する。
www.itmedia.co.jp
米Googleは1月27日(現地時間)、同社が開発したディープラーニングシステム「AlphaGo」が、囲碁戦で人間のプロ棋士に5戦5勝で圧勝したと発表した。
そして先日から続いているアルファ碁とイ・セドル戦に至る。
現在のところアルファ碁が3勝、そしてイ・セドル九段が1勝。
人間とAI
さて「人類がもうAIに勝つことがない」とはてなの困った誇大妄想先生が大口を叩いたあとで早速AIが一敗したわけですが、難しいのはルールの部分なんですよね。
そもそも人間とAIは仕組みが違う。「公平」なルールの設定自体が難しい。
ボクシングとプロレスどころじゃない。
人間は疲れるがAIは疲れないしプレッシャーも感じない。
そして打ち手は、たった独りで立ち向かう。
アルファ碁は最高仕様の企業用サーバー300台をつなげて作った「怪物」として100万個以上の半導体が搭載されていると業界は推測している。
スーパーコンピューターはコンピューターを並列連結して作る。アルファ碁はコンピューター300台でつくられているという。最高仕様のサーバー1台には「頭脳」であるインテルの中央処理装置(CPU)4個とこれを支援するサムスン電子のDRAMモジュール48個が搭載されている。これを基に推計すればアルファ碁にはCPU1202個が入っていると思われる。
ここに64ギガバイト(GB)のDRAMモジュールが搭載されたと仮定すればサーバー1台あたりのDRAM容量は3テラバイト(TB)を超える。これに伴いアルファ碁には923テラバイト容量のモジュールが入っていると分析されている。現在、高仕様サーバーに入る主力DRAMである20ナノ8ギガビット(Gb)DDR4で割って計算すれば計92万3136個のDRAMが使われたことになる。各サーバーにエラーに備えてDRAMモジュールがもう1つずつ加えて搭載されることまで考慮すれば、103万8000個が入ったものと考えられる。
韓経:アルファ碁に半導体100万個搭載…韓国半導体の飛躍「起爆剤」になるか | Joongang Ilbo | 中央日報
人間一人に対して300台のサーバーを繋いだAIとの戦いが果たして「公平」か。
たとえば人間は1手に1時間かけてアルファ碁は1秒で指すことにすれば公平と言えるか。
そもそも機械と人間の間での「公平」とは何を指すのか。
もちろん今回のアルファ碁とイ・せドルの戦いは後世に残る意義のある戦い。
最終戦がどうなるのか
浅い囲碁ファンだけれど、楽しみにしてる。
最後にカスパロフの発言を引いて終わる。
文明の発達が止まる事はない。コンピュータが人間を超える事は必然なんだ。そしてそれさえも、人間の知性の勝利と言える。
何も変わらなかったよ。チェスも将棋もその真理はひとつ。二つの知性の闘いだという事だ。コンピュータに敗れようとも、人間に知性がある限り、チェスも将棋もずっと続いていく。知性の闘いは揺るがない
人間はミスをする生き物だ。ミスをしないコンピュータに5試合のうち1勝すれば、人間の知性は負けたことにならない。人類の闘いはまだ終わっていない。
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