Kスリラーの嚆矢「あの子はもういない」

離れて暮らす高校生の妹が、突然姿を消した。それも、同級生の少年が不審な死を遂げたのと同時に。それを殺人事件と見た警察は、妹を重要参考人として追いはじめた。妹の身に一体何が起きたのか。その足跡を追うべく、私は妹の家を訪れた。

母の死を機に離れ離れになって以来、そこは妹が父と二人で生活している家……のはずだった。だが、クローゼットに仕舞われているのは、高校生が着るには小さすぎる服ばかり。しかも、父が暮らしていた形跡がどこにもない。この家はなにかがおかしい……。そんな違和感の中で、私は見つけてしまった。居間や勉強部屋、さらにはバスルームにまで、家中に取り付けられている無数の監視カメラを――。

ここ数年、中国のミステリが注目され始めたらしい。
陸秋槎「元年春之祭」や陳浩基「13・67」「世界を売った男」
ミステリマガジンでは、このタイミングで華文ミステリの特集号を出した。

一方、韓国からは映画化もされたアルツハイマーの連続殺人犯という珍しい題材の「殺人者の記憶法」など、サスペンス色の強い作品が翻訳されている。
チョン・ユジョン「種の起源」や、イ・ドゥオン「あの子はもういない」もそういった潮流の中の一つ。
まだ作品数は少ないがK(Korean)スリラーと呼んで盛り上げようとしている。


※以下、多少のネタバレがあります



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幼いころ離れ離れになった姉妹。
妹が殺人事件に関わっていると耳にした姉は、10年ぶりに実家に帰る。
だが父親と一緒に住んでいるはずの妹の姿はなく、父親もいない。
そして部屋には無数の監視カメラが仕掛けられていた。


基本は、妹を探す姉のパート。
そこに妹の独白や他人物の視点描写が混ざり、徐々に事件の全貌が明らかになっていく。
グロテスクな事件の割にリーダビリティが高いのは、意外とあっさりしたその書き方だからかもしれない。
この分量の割に一日、二日で一気に読みきってしまった。
映像になればもっとドロドロした印象に変わる気がするが。

役者としての夢を諦めきれない両親と、そんな親の夢に利用される幼い娘ら。
登場する大人は、子供のために何かをするのではなく、自分の願望のために子供を利用しようとする。
そして番組に出演する子供は視聴者やスタッフの目を意識して望まれる子供の姿を演じる。
歪んだ性質に変貌していくのは必然。
「あの子はもういない」
いったい、「いつ」の「あの子」がいなくなったのか。


魅力的な謎、意外な展開、残酷な真実。
作者、これがデビュー作だというのだからなかなかすごい。
読ませるし、最後まで飽きさせない。




今、政治や国と国において韓国と日本の間はとてもじゃないがまともに付き合えない関係だが、だからと言ってこういった上質な作品まで黙殺されてしまうのはもったいない。
「82年生まれ、キム・ジヨン」など韓国発の文学作品は徐々に紹介されているが、韓国のミステリやサスペンス、スリラーはまだまだ紹介されていない。
両国の関係はさておき、Kスリラーが盛り上がることを期待している。