芸術と商売 映画「We Margiela マルジェラと私たち」


映画『We Margiela マルジェラと私たち』予告

映画『We Margiela マルジェラと私たち』公式サイト

ファッションデザイナー マルタン・マルジェラのドキュメンタリーを上映中と聞いて仕事終わりに観てきました。
場所は渋谷Bunkamuraのル・シネマ。
アート系のミニシアターもすっかり減ったなぁ、とか思いつつ。

さすがに誰でも彼でも観にくる題材ではないので、女性が多い。
中には一見興味なさそうなおっさんもいましたが、いかにも服飾系の学生って感じの若者もいたり。
MAISON KITSUNEのトレーナー着てるおっさんもいましたっけね。



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本人が顔出しをしない謎めいたデザイナー マルジェラに関してその関係者が語る、というのが作品の趣旨。

まずこの映画、ナレーションがない。
全編インタビューで構成されているので、ある程度経緯を知っていないといけない。

たとえばアーティザナル担当の女性が出てきてさらっと答え始めるが、「そもそもアーティザナルコレクションとは?」という説明はない。
マルジェラはブランドを身売りして、どこかへ消え、その後、問題を起こしディオールをクビになったジョン・ガリアーノがマルジェラのデザイナーになり、マルジェラはすっかりきらびやかなガリヤーノ的な美しいものに変わってしまったことも触れないし、説明もない。
なので前提としてそういう知識がある程度ないとひたすら「マルジェラは天才だ」を繰り返し聞くだけのムービーになってしまう。
まぁ、まず何も知らない人が観に行く映画でもないだろうが。

※ちなみにアーティザナル・コレクションは「蝶ネクタイで作ったドレス」「靴下で作ったニット」など職人が一つ一つ手仕事で作るコレクションなので希少価値が高い。


真っ白な画面。
先日、死去したジェニー・メイレンスがインタビューに応じる。
画面は白いので音だけで判断すると病室かどこからしい。
ジェニー・メイレンスはデザイナーマルジェラと組み、初期から経済的な面で支えたビジネスパートナー。

マルジェラ本人は顔出しNGで、手のみOK。
なので登場するのは、声だけのジェニー・メイレンスと工房を支えた職人やブランドに関わった人々。


内容を端的に言えば、業界に流されることのない才能のあるデザイナーがブランドを始め、規模が大きくなるにつれ経営がうまくいかなくなり、会社を身売りし(育てたブランド名を売り)デザイナーも消える、という流れ。
作中、マルジェラの言ったという「デザイナー(マルジェラ)が姿を見せない(存在しない)ことで存在する」が非常に示唆的。
顔を出さない匿名のデザイナーだからこそ、創りだす作品にも単なる日常アイテムとしての衣料品ではない、意味や価値が付与される。

確かマルジェラがH&Mとコラボするというニュースを見たときにマルジェラもすっかり変わっていくんだろうなぁ、などと寂しくなった記憶がある。

マルジェラはデザイナーだが商売人ではない。
売り物としてのファッションを生産するのには向いていなかった。
だからマルジェラが最低賃金で働いていたというのも頷ける話。

ファッション業界はきらびやかなイメージだが、ストイックに、ひたすらデザイナーとチームが自分の作りたいものを作り、周囲がそれを支える「We(我ら)」で構成されるマルジェラが、やがて経済的に追い詰められていくというのはなんとも難しい話。
どこの業界にでもあるが、それまで自分のスタイルを突き詰め、周囲の評価を気にせず先鋭的にやっていて、商業的に売れるものを作った途端コアなファンに「日和った」と揶揄されてしまう皮肉。
マルジェラは、商業主義に日和らず突き進み、立ちいかなくなり、結果として会社(ブランド)ごと売り飛ばすことになってしまった。
そしてショーの最中、マルジェラは消えたのだそうだ。

面白かったのがメイク担当のインタビュー。
マルジェラ本人がいなくなった後のコレクションでは、ランウェイのモデルも普通の女性ではなく、細く綺麗なモデルや有名モデルになったのだそうだ。
マルジェラ時代のコレクションのメイクは不完全で、必ず未完成に。
いかにもマルジェラらしい話だと思った。


Maison Margiela | Fall/Winter 2019/20 | Paris Fashion Week

すっかりガリアーノのブランドになったなぁ。。。


果たしてファストファッションとコラボするのが正しいのか、それともひたすらコアな層に向けて作り続けるべきか。
これが絵画などのアートならそれでも良かったろうが、コスト的に見合わない服飾ではそれも限界だったのかもしれない。
なかなか興味深いドキュメンタリーだった。