NETFLIX「全裸監督」は素晴らしいが複雑な気持ち


「全裸監督」【クリップ】伝説の幕開け!“チーム村西”結成!? | Netflix


話題の「全裸監督」を観た。

まず大前提。
「全裸監督」という作品自体はとても素晴らしい。
村西とおる役に山田孝之を据えたからこそブリーフ姿一枚で独特の喋り方をする少しコメディライクな要素の強いキャラクターを演じても崩れることなくあれだけのクオリティになったろうし、黒木香役の森田望智さんの(文字通りの)体当たり演技も言うことがない。

二律

脚本に関しても非常に上手い。
そもそも主人公が村西とおるでアダルト業界を描くというのはとてもセンシティブで、当然ながらあちこちから不満が噴出するのも見える。

だから今作では対立軸として石橋凌演じる池沢率いるポセイドン企画を登場させ、「業界のドンvs村西」の二項対立の構図を描いてみせる。
金儲けのために業界を支配するポセイドン企画vs作品の質にこそこだわる村西とおるサファイア映像。
巨人とアリ、ゴリアテダビデ
どちらも同じ業界の穴の貉、一つ閉じた世界においての勢力争い。
観ている視聴者は弱い主人公を応援したくなるのは、がんばれベアーズの昔から同じ。

トシ

そして巧妙なのはチンピラ トシという存在。

村西は、裏本などに手を染めていく。
当然のことながらアングラな違法行為は裏の世界とつながることになる。
その象徴としてヤクザの古谷(國村隼)が登場する。

古谷はうだつの上がらないヤクザだったが、池沢と繋がり裏の世界で力を増していく。
アダルト業界でいうならブラックなのが古谷、グレーなのが池沢、グレー寄りのホワイトが村西だろうか。

そのうちシャブよりエロが金になる時が来ます

村西のそんな一言を受けたからか古谷は裏の業界で成り上がることになる。

シーズン1−3
成り上がった古谷はどん底の村西らに倉庫兼事務所を紹介する。
何か美味いものでも食え、と現金を差し出す古谷。
だが村西は受け取らず、傍にいたトシが受け取る。
この行動が象徴するように村西と古谷の間には常にトシがクッションとして介在する。

村西のアングラな部分を象徴するチンピラ トシ。
彼は一人で暗部を担い、独り堕ちていくことで村西自体の(現実がどうあれ)ホワイトぶりを補填するために機能する。

正義

前述したように池沢は業界を牛耳り圧力をかける巨大な敵。
村西は圧力に屈せず己が信じる作品を撮るために孤軍奮闘する反逆者。

本来、対立項であれば社会的正義の象徴である警察は正義の側に立つ。
だが今作は、池沢と繋がる悪徳刑事を登場させる。
それによって、業界とヤクザ、警察がそれぞれ繋がり村西に立ちふさがるという構図が生まれ、不正行為を見逃す不正義の警察という立ち位置になる。

業界のドン&警察&ヤクザvs村西とおる
この構図があるからこそ視聴者の視点は村西側に立つ。

女優

そしてそんな村西の危機を救うのが村西の撮った作品だった、というのも象徴的な事象だろうか。
実際、黒木香の作品は凄まじく売れたらしい。

8万本という当時では異例の大ヒットを記録した。
別冊宝島 昭和史開封!男と女の大事件』(2015年宝島社)に掲載された当時の村西監督の右腕だった日比野正明監督の証言によれば、レンタルショップに卸した1万本の他に、購入希望者からの現金書留が約7万通も押し寄せたという。
痴女の誕生 アダルトメディアは女性をどう描いてきたのか/安田理央

少なくともこの作品の中での二人の関係は良好であり、黒木香村西とおるのために身を粉にする。
のちの現実はさておき。

この物語は村西監督の物語だが、同時に業界で生きる女優、女性の物語でもある。

それぞれの女優に対しての扱い。
これらを見ると、國村隼のヤクザや古谷や池沢の女優に対する扱い方は単なる商売としてのモノでしかない。
だが村西やそのスタッフは女優に対して女性として、一人の人間として向き合うという演出。
村西が黒木香とわかり合ったからこそ作品はクオリティ高く、だから村西の危機を救うことになる。

こういった演出意図は美化と言えばもちろんそうだろうが、少なくとも
「女優をものとして扱う業界はクソだ」
という主張は成立させているように思えた。

ハワイの撮影が終わり、アリソンが村西に日本の業界は時代遅れだし、村西の作品も最悪だと言ってのける。
これもまた業界に対する批判の一つだろう。

この女性、女優に対するポジションがあるからこそ守られるべきマスターテープを勝手に持ち出したトシを村西は見放し、切り離されたトシは闇へ堕ちていくことになる。

ネトフリ

いやー、素晴らしい。
大絶賛です。

と単純に言えればいいのだが、なかなか難しい。
なにせ村西は色々問題のあるお方。
さらに黒木香村西とおるの関係も描かれた当時とは随分異なる。
近年のアダルト業界の暗いニュースも相まって両手放しで大絶賛しづらい、というのは気になる部分。
なにやらモヤモヤするし、複雑な気持ちが残る。

もちろん現実は現実、フィクションはフィクション。
あくまで過去の事実をベースにした原作を脚色し描いた映像化なのだ、といえばもちろんそうなのだが、自分のように村西とおる=さまぁ〜ずの深夜番組で観ていた世代ですら(黒木香さんの作品は正直見ていないが、すごそうなのはよくわかった)描かれていない部分を考えるとなにやらモヤモヤしてしまうのは仕方がないのかもしれない。
まんまやればもっとダーティでドロドロしたものになり、こんな快作にはなっていないだろうが。

ただ性風俗業界を無闇に賛辞する内容ではない。
表もあれば裏もあるし、怖い人たちもいるし、薬漬けで人間やめちゃうシーンもある。
女優だとバレてしまいいじめられる、見せしめとして女優であることをリークされ田舎に帰るしかなくなったり、悲痛な現実も描かれ、業界プロパカンダだという声には疑問を感じる。
少なくとも作品を見て業界を目指したい、と思うだろうか。


Netflixに加入しているなら観て損はない作品であるのは間違いない。
地上波のテレビドラマが捨ててきた熱くてどす黒いモノがある。
原作はもっと凄いらしいが、時間があったら読んでみよう(積読が多少解消されればの話だが)。

全裸監督 村西とおる伝

全裸監督 村西とおる伝