自走都市なんて面白い発想を生かしきれなかった 映画「モータルエンジン」

たった60分で文明を荒廃させた最終戦争後の世界。残された人類は空や海、そして地を這う車輪の上に移動型の都市で創り出し、他の小さな都市を“捕食”することで資源や労働力を奪い生活している。“都市が都市を喰う”、弱肉強食の世界へと姿を変えたこの地上は、巨大移動都市“ロンドン”によって支配されようとしていた。他の都市を次々に飲み込み成長を続けるロンドンを前に、小さな都市と人々が逃げるようにして絶望的な日々を送る中、一人の少女が反撃へと動き出す。

以前、N・W・レフンも描いてましたが暴走しあらゆるものを飲み込んでいく西洋文明(青、ロンドン)に対して東洋文明(赤、テロ組織ならびに盾の壁)が立ち塞がる図式は最近の潮流かもしれない。
現実は中国が資本を増し、途上国に金を貸してはどんどん自陣営に飲み込み、英国はブレグジットで自縄自縛してるんですが...。
以下、ネタバレ有りで。



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この作品、色々突っ込みどころはある。
スチームパンキッシュな世界観とかデザインは面白いし、リーゼント決めまくったアナ・ファンはとてもいい。
ただ韓国系よりカンフーのできる中国系の方が良かったのではないかなぁ。
スプレーで固めまくったリーゼントと真っ赤なコートを着て、ガンカタよろしくショットガン振り回しつつのカンフーアクションとか見たかった。
この映画、肉弾アクションはかなり大人しい。

ハウルの動く城どころか地上を走り回る都市を巨大な都市⦅ロンドン⦆が飲み込む、というのは面白い発想。
なのに、飲み込むシーンが結構あっさりしてるというか、冒頭近くのワンシーンのみというのはなんとも寂しい。
天と地と」じゃないんだから予告がハイライトってのはやっぱりよろしくない。
近隣の小さい都市をガンガン飲み込み砕いていく無慈悲なロンドン、期待してたので...。

ネトフリのドラマ「アンブレラアカデミー」ではジャンキー役だったロバート・シーアンが今作では真面目な学芸員トム役。
このトムがなんとも色々足を引っ張る&空気も読まないシティボーイ。
そんな都会っ子が荒野を彷徨う中でどんどん逞しくなって...あんまり行かない。
キーキャラの割に活躍しないんですよね、この人。
最後のスターウォーズのあたりくらいで。

タイラント然としたスティーブン・ラング(映画「ドントブリーズ」で盲目の人間凶器役)演じる復活者シュライクはヘスターを追いかけ回すあたり面白かったのに、急にヘスターが(しょーもない相手に)恋したと知った途端落胆して死んでしまうなんて。
いや勿体無さ過ぎる。
説得して一緒に戦ってそこで人間味に触れるとかって展開こそ胸熱だったろうに...。

なんでヘスター、あのトムと恋に落ちるのよ。
どう考えても吊り橋理論でしょうよ。
代わりにシュライクが脱落するとは...。
田舎の純朴な娘が都会のふにゃふにゃ野郎にひっかかる感じ。
シュライクもそりゃ悲しみのあまり死ぬわな。
いやー、あのチートなキャラは惜しい。

前述しましたが、後半の戦いは完全にデススターvs反乱軍。
アジア系混成軍が英国伝統のロンドンへ立ち向かう。

とはいえこの作品、敵は「弱肉強食の都市が走り回る世界で圧倒的な力を誇るロンドン」ではなく「クーデターでロンドンを乗っ取り旧時代の兵器を使うヴァレンタイン(「マトリックス」のエージェント役で有名なヒューゴ・ウィーヴィング)」にすり替わる。
そうでないとロンドンそのものを滅ぼさなきゃならなくなってしまうので。

戦争のはずなのに戦争ではない。
個人を倒してしまえば終わる。
そういう図式で手打ちさせるためにヴァレンタインに全部の責任を担わせる。
旧世代の兵器使用はまだしも、それ以外に関しての戦争責任はロンドンの皆様にあるはずなんですが...。
ヴァレンタインの悪事には目を背け、ロンドンが他の街を飲み込み、その利益を人々が享受していたことはさておき、最終的には手と手を握り合う。
なんて心の広い中華思想でしょう。
ヴァレンタインにしろ旧時代の兵器でロンドンが覇権を握る(そしてそこのトップとして君臨する)という目的だったはずで、だったらロンドン市民だって無罪でもなんでもないんですが(最後の戦いでも観光気分で騒いでたくらいで)。
それをいつの間にか毒親ヴァレンタインの身勝手な野望を挫く→平和、という個人レベルの話にシュリンクすることで悪人のいない世界のオチに持ち込むのは結構しんどいが全部うっちゃって「私、恋に落ちちゃった、てへへ」って、いや、おま。

色々いいところも山ほどあるのにものすごく惜しい。
その辺が興行収入に結びつかなかった理由じゃないですかね...。