牛のVRゴーグルを見て思う 柴田勝家「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」

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ロシアの首都モスクワ郊外にある牧場で、牛にVR(仮想現実)ゴーグルを装着させる試験的な取り組みが進んでいる。狙いは牛乳の質と量を高めることだ。
モスクワ地方の農業当局は25日、報道声明を発表。そこには新型ゴーグルを装着した牛の写真も添えられていた。
同局の説明によると、複数の研究の結果、飼育環境が牛乳の生産に影響を与える可能性が判明した。特に牛乳の質の向上や、量の増大につながることが明らかになったという。

昨日、上記のようなニュースが流れた。
その後デマだとも言われたが(確かに牛用に開発したと言う割にゴーグルは前方に画像を見せるようになっているのは違和感)、デマかロシアのプロパガンダかはさておき。

これを見ていたら以前読んだSF短編を思い出した。



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雲南省スー族におけるVR技術の使用例

雲南省スー族におけるVR技術の使用例 (早川書房)
柴田勝家雲南省スー族におけるVR技術の使用例」

中国、雲南省に住む少数民族スー族。
彼らは生まれてから死ぬまでVRつけて過ごす。
そんな奇妙な民族を取材したアメリカ人の目線で描かれたフィクション作品。

私達の祖は、それこそ外の世界を知り、それを元に私達の世界を作ったのだろうが、世代を経るにつれて、次第に私達も手を加えていった為に、今となってはどれほどに外の世界と違っているのか見当もつかない。
さらに言えば、私にとって貴方が今、本当に存在しているのかも定かではない。私が貴方の手を取ろうとも、それが貴方のふりをした他人のものであるかどうか、それを確かめることもできないのだから

乳幼児の時ゴーグルをつけられ、成長するにつれ、それに応じたゴーグルをつけ、外世界を見ることのないまま死んでいく不思議な民族。
物語としては、淡々と不思議な習俗を守り生きる種族を描いた作品なのだが、思考実験として非常に面白い。

世界と幸せ

生まれた子牛にVRゴーグルをつけているなら、見える世界は全て人の作り出した虚構。
もし自然の風景よりも「牛乳の質と量が高まる風景」を探し出せれば人間はそれを行うだろうし、その時はきっと動物愛護団体から「残酷だ」と言う意見も出るだろう。

映画なら「マトリックス
人間はカプセルに囚われ、投薬によって夢を見させられ動力として培養され生かされている。
あれを想像すればいい。

例えば鶏にヘッドセットをつけ、美しい草原の風景を見せるとする。
そうすると鶏が産む卵の質は向上するかもしれない。
虚構を見せ続けることは残酷に思えるかもしれないが、では狭苦しい鶏小屋に閉じ込められひたすら卵を生む現実を見せる方が鶏にとって幸せなのか。

人間とは面倒な生き物で、それが他者であれ、それが幸せであるか?を考えてしまう。
貴方は幸せですか?
これを読んでどう思いますか?
これは幸せでしょうか?

鶏にとって幸せって何だろうか、牛にとっての幸せとは何か。
乳を絞られる為に生かされる乳牛と、ナゲットのために潰される鶏と、人間の博打のために走らされる馬と。
つい、どれが幸せか?なんて考えてしまうが人間のエゴで命を左右されるならその時点で同等でしかない。
幸せかどうかと言うのは勝手な人間のエゴだろう。


VRゴーグルをつけ暮らせば、美醜は関係ない、金持ちかどうかも関係ない。
ゴーグルをかける人間とかけない人間が存在するからそこに差異が存在する。
現実を仮想世界に落としこむ必要はない。
仮想世界は現実の写し鏡ではない。
データしか存在しない視覚世界で生きれば物理的な自分の存在は些末なものでしかない。

相手が男性か、女性か。
ツイフェミだ、キモオタだ、負の性欲だなんて関係ない世界。
人と人とに差があり、違う世界を見ているのにコミュニケーションなんて取ろうとするから、文字でしか交流しないのにそこでとても愚かな争いが起きる。

もう人間はスー族みたいに死ぬまでゴーグルを被っていた方がいい。
そうすれば牛の乳みたいに多少は人間の質も上がるかもしれない。