教授の初心者向けミステリ講座:安楽椅子探偵・叙述トリック

※ヒゲをしごきながら”教授”登場
 
教授「えー、みんな静粛に」
 
生徒「いや、僕一人しか、居てないけど...」
 
教授「では授業を始める。本日はミステリ初歩の初歩ということで語っていくわけだが...」
 
学生「ミステリーに初歩も何もあらへんと思うんですけど?」
 
教授「何を言っておるのかね。内容がなんであれ"初心者向け"と書いておくだけで内容のレベルを下げられるという保険があるのを知らんのか。専門的でない限り内容が高度かそうでないかなど人によって異なるのだから"初心者向け"というマジックワードは専門家ぶった輩からのマジレス避けになるのだよ」
 
学生「そんな身もふたもない...」
 
教授「そもそも初心者向けかどうかなんぞ相対的にしかわからん。つまり、これはそういう様々なことが不問の独善的な語りだということだよ、げふんげふん」



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安楽椅子探偵

教授「ミステリの歴史や定義などは退屈なので端折るとして、まずキミは安楽椅子探偵というものを知っておるかね?」
 
学生「安楽椅子ってなんです?」
 
教授「安楽椅子も知らんのか。まったく今の若者はネットという知識の宝庫を簡単に利用できる手段を持ちながら、利用するのはTikTokで低レベルなダンスを披露するだの、ヤフコメに目を覆いたくなるようなコメントを書き込むだの、食べログの当てにならん評価で右往左往したり、フォートナでビクロイした*1YouTuberにスパチャ*2するくらいしか使わない。だから若者にネットは早すぎたのだと何度...」
 
学生「やたら詳しいな」
 
教授「それはともかく、安楽椅子とはいわゆるリクライニングチェアだな。英語で言うならArmchair Detective。だが必ずしも安楽椅子である必要はない。ベッドでもなんでも、要はその場から動かず聞いた情報だけで推理するミステリを安楽椅子探偵ものと呼ぶ」
 
学生「デンゼル・ワシントン主演の『ボーンコレクター』って映画がありましたね。あれは四肢が麻痺した捜査官でしたっけ」
 
教授「そうそう。リンカーン・ライムシリーズなどはまさに安楽椅子探偵と呼べるな。古典ならハリイ・ケメルマン『9マイルは遠すぎる』が有名だ。表題作は隣席から聞こえた『9マイルは遠すぎる、ましてや雨の中ともあれば』と漏れ聞いた会話から色々推理するというゲスパー*3満載な内容なんだが」
 
学生「ゲスパーとはこれまた身もふたもない...素人探偵は大概ゲスパーですよ」
 
教授「他には会話を聞いていた執事が推理するアシモフ黒後家蜘蛛の会」や素晴らしい愛蔵版が出たフットレル「思考機械の事件簿」やオルツィ「隅の老人の事件簿」、日本なら元刑事の父親が息子の話から事件を推理する都筑道夫「退職刑事」が有名だな」
 
学生「なるほど。第三者からの伝聞で推理する形式を安楽椅子探偵と呼ぶんですね」
 
教授「その通りだ。まぁ、とは言え隅の老人のように記者の前で自分の推理を開陳するタイプの変わり種も安楽椅子探偵と呼ばれているがね」
 
学生「直接推理するタイプやなかったら安楽椅子なんですかね」
 
教授「しかし、現代はキミのように安楽椅子と聞いても なにそれ?おいしいの?という若者も多い。そこで私は新たな呼称として『マックで隣のJK探偵』という」
 
学生「却下」
 
教授「ぐぬぬ...」

※マックで隣のJK: SNSには『マクドナルドで座ってた隣の女子高生が話していた会話』という真偽不明でまことしやかな逸話めいたものが山ほど転がっている

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叙述トリック

教授「さて、次は叙述トリックだ」
 
学生「叙述...ということは書くことでトリックになる?」
 
教授「そう、読んで字の如く地の文にトリックが仕掛けられたものを一般的に叙述トリックなどと呼ぶ。例えばキミのさっきからの発言を活字にしたとする。読者は、キミの関西弁で関西人を連想して読む。だが現実のキミはアメリカから来た。関西弁を使うから活字だけなら関西の人間だと誤認識する。こういう錯誤を叙述トリックと呼ぶわけだな、ボブ」
 
学生(以下:ボブ)「ほんで地の文で"教授"と書いておいたらアンタもミステリの教授だと思わせることができるわけやね。あだ名が教授なだけやのに」
 
学生(あだ名:教授)「そうその通り。学生二人の会話がまるで授業のように読めるわけだ。ただこれは映像になればすぐにわかる。だから叙述トリックは、何かしらの情報が欠落しているフォーマットにおいてのみ成立するトリックだと言えるね。あまり具体例を挙げるとネタバレになってしまうのが困り物のジャンルだが、「二転三転!驚きの叙述トリック ベスト10!!!」とかなんとか銘打ったアマゾンからの解説をコピっただけの安っぽいテンプレ記事にはネタバレ気にせず載っていたりするな」

ボブ「なんか全方位的に喧嘩売ってませんかね...せやったら映像の叙述トリック言うのはないんですね」
 
教授「いや、幾つかあるな。有名なところだと『(※ネタバレ反転)ユージュアルサスペクツ』がそうだな」

ボブ「あぁ!なるほど。あれなら見たことありますよ。確かに映像でトリックが仕掛けられてましたね」

教授「うむ。映像でもトリックを仕掛けることは可能なのだ。ただ地の文や映像に情報の欠落を発生させれば成立するんだな。」

ボブ「なるほど映像にしないとキミが猫だということもわかへんし、映像にした途端にわかってしまうわけですね」
 
教授「その通りだニャン。もちろん猫は語尾にニャンなどつけないし、日本語も話さない。だが教授が学生でも猫でも、伏線と納得できる理由さえあれば叙述トリックとして成立するのだニャン。それではこの辺で」

※ひげをしごきながら”教授”(猫)退場

*1:TPSフォートナイトで最後まで生き残るビクトリーロイヤル(略:ビクロイ)

*2:コメントと同時に投げ銭する仕組み

*3:ネットスラングでゲスの勘ぐり