哀れなピエロの視点で観る 映画「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」

全米女子テニスチャンピオンのビリー・ジーン・キングのもとへ、かつての世界王者のボビー・リッグスから電話が入る。「対決だ! 男性至上主義のブタ対フェミニスト!」と一方的に試合を申し込まれる。ビリー・ジーンがボビーの挑戦を受けたその瞬間から、世界中の男女を巻き込む、途方もない戦いが始まった─!

わざわざフィルムの質感で70年代を表現したり、主演の2人がデニーロ・アプローチ並みに実際の人物に似せたり、いや、ビジュアルだけでも十分素晴らしい映画なんですが、フェミニズムを扱ってるからなのか劇場公開期間めっちゃ短かった気がするんですが気のせいですかね、そうですか。
観に行こうと思ってたのに気づいたら終わってた一本。
思い出して配信レンタルで観てみた。

ただ個人的にはフェミニズムガーというタイプではないので(とかいうとセクシスト認定されてしまう*1んですね、こわいこわい)、この映画、主人公ビリー・ジーン・キングではなく、その対戦相手であるボビー・リッグスに視点を合わせてしまった。
以下、哀れなピエロを演じる中年男性視点で見た『バトル・オブ・ザ・セクシーズ



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道化師

ボビー・リッグスは元男性世界チャンピオン。
だが、今やエキシビジョンのようにパフォーマンスしながら素人相手にテニスをする日々。

犬を何頭も引き連れながらテニス。
コートに椅子を置いてテニス。
道化師のようにふざけていても、テニスの腕はまだまだ衰えていない。
適当でも素人相手なら勝てる。

躁鬱な彼は、妻からも三下り半を突きつけられる始末。
ギャンブルがやめられず、いつもふざけてばかり。
ピエロみたいなボビーに妻は辟易としている。
そんな彼がある夜
「立ち上がったばかりの女性テニスリーグのチャンピオンと戦えば話題になるのでは?」
と思いつき女子リーグのチャンピオンであるビリー・ジーン・キングに対戦を申し入れる。

エンターテイナー

ここでボビーは自ら男尊女卑を名乗り宣伝するんですけど、ボビーの男尊女卑は、あくまでパフォーマンスでしかない。
話題作り、エンターテイナー。
今なら炎上商法とでもいうか。

当時盛り上がりつつあったウーマンリブに絡めて、自分をその敵である男尊女卑野郎だと名乗ってみせた。
あえて憎まれる口実を露骨に作ることで、敵を明確にする。
その方が対立構造が分かり易い。
プロレスだって善と悪がはっきりしてる方が盛り上がる。
奥さんにたしなめられるが聞く耳を持たないボビー。
こうやって奥さんの気持ちが離れていく。

本来、男性vs女性なら現チャンピオンvs現チャンピオンであるべきなんですよ。
ボクシングだってせめて階級を合わせるのに。
ボビーは現役のチャンピオンでもなければ男性代表でもない。

全盛期のビリーに比べて中年のボビー。
そもそもミスマッチな2人なんですよね。
言ってみれば神取忍vs天龍源一郎みたいなもの。
年齢も体格も違う2人の対決。

しかしボビーが「男尊女卑主義者」を名乗ったことで、女性を卑下する旧態然とした男性の代表を体現することになった。
そして観客から「男vs女」の対決として見られることに成功する。
でも、それはあくまでパフォーマンス。

劇中、真の男尊女卑男としてすっかり白髪になったビル・プルマンが登場。
典型的な男尊女卑思想の持ち主。
こちらに対してはビリージーンキングも蛇蝎の如く嫌い、試合の解説すら拒否する。

ビリーがボビーと戦うのは、女性のテニスプレイヤーは弱くないと証明するため。
バカにされないため。
ビリーは個人ではなく女子のテニスリーグ、女子テニス界を背負ってる。
まさに女性を代表した名誉のための戦い。

一方のボビーはあくまで個人の利益のため。
もう一度再起するためでしかない。
ボビーが負けたところで、もう盛りを過ぎた元チャンピオン。
選手を支える思想からして試合前から圧倒的に負けてるんですよ、ボビーは。

孤独

旬を過ぎたロートルテニスプレイヤーがもう一旗あげようと目論んだ決死の一大イベント。
でも試合前、ボビーが独りエレベーターで降りるシーンが既に暗喩的。息子に置いていかれ、独りで坂を下っていくボビーの哀愁...。
試合前なのに。

コートではいつも一人きりとか歌われてましたが、ボビーに至ってはコートの外でも1人きり。
奥さんはどこかへ行き、息子も滑稽な父親を見てコートには来なかった。
一方のビリー・ジーン・キングは、夫と恋人がお見送りしているのに。

疲弊してベンチに座り込むボビー。
そこに、いつものふざけた表情はなく、年齢通りのロートルで孤独な中年男の顔しかない。
普段が明るいから余計に目立つ。
光が強いほど影が、ってやつですかね。


最後、もう少しボビーも描いて欲しかったが、蛇足ですかね。
ボビーは、あくまでプロレスの対戦相手でしかない。
ビリーにとって真の敵(女性を抑圧する社会構造)との戦いが始まる序章でしかなかった。


この映画、もっと話題になってもいいのに。
別にフェミニズムやテニスに興味がなくても充分面白い。
普通にスポーツ映画、人間ドラマとしても良くできてる。

特に今ならフェミフェミ言ってる人は、Twitterで気に入らない表現の自由戦士見つけて吊るしあげたり、噛み付いたり、ムダなことしてる暇あるならこれを観ればいいのになぁ。
どちらも対話なんてするつもりないんですから。

三連休に観るにもオススメの一作。
アマゾンで199円から動画レンタルってのもお安い。

バトル・オブ・ザ・セクシーズ (字幕版)

バトル・オブ・ザ・セクシーズ (字幕版)

  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: Prime Video