男尊女卑マイクロフトvsホームズの妹 映画「エノーラ・ホームズの事件簿」


ネトフリオリジナル映画。
「ホームズに妹がいたら?」を描いたシャーロック・ホームズパスティーシュ
ナンシー・スプリンガーの原作は未読。
 

ちなみに絶版らしいので興味のある方は古本屋でどぞ。

ホームズ家の母親が失踪し、末妹エノーラは捜索を試みる。
だが帰ってきた長兄マイクロフトはエノーラを花嫁学校に入れようとし、反発したエノーラは家出。
独力で母親を探し出そうとする。
だが途中、若い貴族が暗殺者に襲われそうになり...と言うお話。

豪華キャスト、ボーイ・ミーツ・ガールあり、フェミニズムありあり。
以下、ネタバレなしで。



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エノーラvsマイクロフト

エノーラ役にストレンジャーシングスのミリー・ボビー・ブラウン
ホームズ役がスーパーマンやウィッチャーのヘンリー・カヴィル、母親はヘレナ・ボナム・カーターですからキャスティングは一流。
ミリー・ボビー・ブラウンのエノーラは非常に魅力的で◎。

ただエノーラが柔術使いなのはちょっと。
できれば次兄みたいにバリツ*1使いであって欲しかった。

サム・クラフリンが演じたマイクロフトがやたら旧弊的価値観に囚われる(その時代なら普通と言われる)ステレオタイプな嫌な役で、エノーラとその母親がいわゆるフェミニズム的な価値観を持っているせいで相容れない。

と言うか、エノーラを正しく見せるためにマイクロフトにその嫌な役を一任しているのがなんとも悲しい。
本来なら父親が背負うべき「家父長制な価値観」をマイクロフトに体現させ、エノーラの「女性解放思想」と対立させる、と言う構図。

その上、歴代マイクロフトの中でも一番ポンコツじゃないだろうか。
これじゃあレストレード警部以下ですよ。
そりゃあ賢明な兄が「家父長制な価値観」では具合が悪いですから、愚かでなければならないわけで。

エノーラに「金を返せ!私の金だ!」って怒鳴るとか...いや、さすがにやりすぎ。
そもそも母親からエノーラに託された金は母のものであってマイクロフトのものではないだろうに。
ホームズ家の長兄としても酷すぎる。
グラナダテレビ製作版ホームズのマイクロフトはもっと賢明な長兄でしたっけね...。

ドラマシリーズとして毎回登場する「口うるさいマイクロフト」くらいならよかったのに。
 
 

ポンコツ兄弟

エノーラを賢明に描くため他を落とすせいで全体の知能レベルが低い。
だからホームズすらエノーラほどの価値観を持ち得ず、エノーラに一本取られる。
ナンシー・スプリンガーの原作でもそうらしい。
聖典でいえばワトソンやレストレードが担うべき引き立て役をホームズやマイクロフトが担ってる。
スーパーマンナポレオン・ソロ*2を演じたヘンリー・カヴィルの、やたらごつくて頭脳労働より肉弾戦が似合いそうなホームズはここで生きるのかもしれない。

事件そのものより、まずエノーラVSマイクロフトが話の結構なボリュームを持っていっているせいで謎解き要素がかなり薄い。
別にフェミニズム映画が嫌いなわけじゃないんですよ。
例えば「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」みたいに社会思想の対立がメインになるべき映画ならいいと思うんですよ。
あの映画はメインテーマとしてそれを扱い、きちんとカタルシスがあるからこそ面白いしとてもよくできてる名作(ボビー・リッグスが悲しい映画でもある)。

バトル・オブ・ザ・セクシーズ (字幕版)

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  • 発売日: 2018/09/23
  • メディア: Prime Video

でもこのホームズのパスティーシュにここまでの価値観の差異みたいなものを入れ込む必要あるのかな、と。
ボーイ・ミーツ・ガールにエノーラの成長物語に謎解きにアクションに女性解放。
結果として多すぎてそれぞれが薄まる。
原作がどうなのかはわからんですが。

なにせホームズがいなくてもこの話全然成立しちゃうんですよ。
ホームズは時折登場してエノーラに同情したりする程度。
しまいには出し抜かれる始末。

どうせならもっと「エノーラにとって賢明な兄」と言うメンターとして登場してくれれば存在感もあったのに、価値観に中立すぎるせいで影すら薄くなってしまった。
エノーラに助けを請われて「私にはなにもできない」とか放棄するって、いやあんた。
もっと「多忙だから助けたくても助けられない」とかやりようもあるだろうに。

なのでホームズのパスティーシュを期待する人にはイマイチ、そうでないキャラクター作品みたいなものを楽しむ人には面白いのかも知れないジュブナイルチックなお話。
ホームズの名前を使う割に聖典であるホームズへのオマージュみたいなものがほとんどないのが色々悲しい。
エンタメにするならもっとすっきりと楽しめる話がよかった。

ただ宮崎駿版ホームズに出てくる自動車が登場するのはちょっとよかった。

個人的にはパスティーシュなら「シャーロック・ホームズ宇宙戦争」とか「憂国のモリアーティ」読む方がよほど有意義だと思ってしまった。
映画なら「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件
イアン・マッケラン演じる老いたホームズが素晴らしいので是非観て欲しい(しかも今はアマゾンプライムの対象)下に貼っておきます。
やっぱりマッチョなホームズはなんか違うなぁ...。

Mr.ホームズ 名探偵最後の事件(字幕版)

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  • 発売日: 2016/09/05
  • メディア: Prime Video

*1:聖典に登場する謎の格闘技

*2:映画「コードネーム U.N.C.L.E.