ネット犯罪と善悪の彼岸 陳浩基「網内人」

網内人 (文春e-book)

「ネットはあくまで道具に過ぎない。それは人を正義感にもするし、邪悪な存在にも変えてしまう。刃物が殺人を起こすわけじゃない。刃物を持った犯罪者が殺人を犯すのと同じ理屈さ。なんでも『ネット民』のせいにするのは現実逃避でしかない。人間ってやつは自分が心の中に隠し持っている欲望を認めたくないから、そうやってスケープゴートを仕立てたがるんだ」

第九章

ミステリのランキングでも軒並み上位をかっさらった華文ミステリー陳浩基「13・67」
激動の香港を舞台にベテラン刑事の泥臭い捜査を描いた前作と違い、今度の新作はネット世界で行われた犯罪と真相の追跡。
面白そうな予感しかしない。



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反政府デモにより混乱する香港。
そんな香港で両親が他界し、姉妹二人だけでひっそり暮らすアイとシウマン。

あるとき混雑する地下鉄の車内で痴漢行為を受けたシウマン。
その後、犯人は逮捕、罪を認め刑務所に入ることになった。
しかし、そんな中、掲示板に書込まれた

「十四歳のクソ女にハメられて俺の叔父さんが刑務所に入れられた件!!」

犯人の甥を名乗る人物による痴漢冤罪を主張する書き込みはバズり、被害者だったはずの彼女はバッシングを受けることになった。
気に病んだシウマンは自室から投身自殺をしてしまう。

独り残されたアイは掲示板に書き込みを行った犯人の甥、ハンドルネームkidkit727を探すべく探偵に依頼。
だが犯人に兄弟はおらず、当然、甥も存在しなかった。

「區さん、あなたが本当にこの書き込みをした人物を見つけ出したいというのなら、ここに書かれている住所を訪ねてみるといい」

第一章

探偵に勧められたITのスペシャリスト『アニエ』の協力を得て、アイは書込み犯kidkit727へと迫っていく...。


正直、「ネットの書き込みで女子高生を自殺に追い込んだ犯人を追う」というのはちょっと事件として小粒じゃないかな?と思って読んでいたが、いや読ませる読ませる。
学校とイマドキの若者、ネット世界とハッカー、何か匂わせるようにそこに差し込まれるベンチャー企業の風景。
そんな物語にガッツリとミステリとしてのトリックも仕掛けられてる。

探偵役のアニエはITスペシャリストというかハッカー
法律に縛られず合法非合法問わずIPアドレス、フリーWi-FiアクセスログExif、中間者攻撃、IMSIキャッチャー、ソーシャルエンジニアリングまで様々な手段を駆使して犯人に迫る。
語り手、アイがあまりにITオンチというか、いちいちアニエに確認してくれるおかげで(それに答えるアニエは随分優しいが)専門的なワードもわかりやすく読みやすい。

しかも単なるミステリというだけでなく、中盤から後半にかけて大きく展開。
あれがあれかと思ってたのに違ってた時は、あーなあるほどーと。
ミステリ読みがどういう風に裏の裏(裏を読む読者のその裏)を読むかを想定してくるんですから。
そういうあたりも素晴らしい。
アイのキャラは読んでいてちょっとイラッとさせられる場面もあるが、あそこも計算だと思うと...。
陳浩基おそるべし。

シリーズ化を想定したアニエのキャラ造形は、ちょっとスーパーマンすぎる気がしなくもないが、正義とも悪ともつかないネットの義賊としては相応しい。
(いつか書かれるであろう)二作目にも期待大。

今のところ陳浩基作品にハズレなし。

網内人 (文春e-book)

網内人 (文春e-book)

13・67

13・67

  • 作者:陳 浩基
  • 発売日: 2017/09/30
  • メディア: 単行本