播田安弘「日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る」

大統領選と真実と

先日、アメリカ大統領選挙において無数のデマが撒き散らされたのは記憶に新しい。

曰く、死人が投票した、
曰く、急に投票数が増えた、
曰く、投票システムが操作されているetcetc

どれもこれも隠されていた「真実」だそうだが、それを示す証拠と称するものはどこかから流れてきたツイートやその画像、切り抜きや適用に当てはめた(恣意的な誤訳のある)字幕付きの動画。
やたら「真実」や「証拠」が安売りされ、根拠が薄い「真実」は次々ファクトチェックによって否定されていく。
チキンが埋められた動画は「トランプの投票用紙が埋められている動画」で、郵便投票のカウント開始によって増えた票数は「不正票の証拠」だそうで。
 
だが、多くのファクトチェックによって暴かれたデマも曰く
「ファクトチェックをやっている奴が信用できないから本当だ」
となってしまう。
ファクトチェックを否定できるだけの証拠を持ち合わせていないから、ファクトチェックそのものを否定するしかないのは「偽」の証拠でしかないのだが。

「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」

「半年ROMってろ」

などと学んだ世代からすれば、「真実」というのはそこらへんのSNSに簡単に落ちているものではない。
「真実」と名乗るものにほど眉に唾を塗り、距離をとって、慎重に対処する。
自分にとって都合がいいか悪いかではないし、自分が好むか否かでもない。
 
ましてや素性も知れないアカウントが発する真偽不明の情報(ツイート)を鵜呑みにして「これが真実だ!拡散しよう!」だなどRTするような輩にとっての真実とは「本当にあったこと」ではなく「自分にとって気持ちのいい物語」でしかない。
 

蒙古襲来

そんなことはさておき、今年話題になったゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」でも扱われている蒙古襲来、そして秀吉の大返し、戦艦大和について考察した本が出た。

【謎の一】蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか?
最初の蒙古襲来「文永の役」で日本の武士団は敗北を重ね、博多は陥落寸前となったが、なぜか突然、蒙古軍が船に引き返したのはなぜか?

【謎の二】秀吉はなぜ中国大返しに成功したのか?
本能寺の変のとき備中高松城にいた羽柴秀吉が、変を知るや猛スピードで2万の大軍を率いて京都に戻り明智光秀を破った「中国大返し」はなぜ実現できたのか?

【謎の三】戦艦大和は「無用の長物」だったのか?
国家予算の3%を費やし建造された世界最強戦艦は、なぜ活躍できなかったのか? そこには「造船の神様」が犯していた致命的な設計ミスが影を落としていた――。

個人的にやはり今年ハマったツシマに大きく関連のある「【謎の一】蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか?」を中心に以下。



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神風

2度あった蒙古襲来の1度目の文永の役で、古来の作法どおり名乗りをあげて、一騎打ちを挑んだ日本の武士たちは、集団戦術と新兵器を用いる蒙古軍にさんざんに打ち負かされて退却を重ね、九州は陥落寸前に陥ったとされていますが、にもかかわらず、蒙古軍が突然、上陸地の船に撤退したのは何故か、と言う謎です。
その夜、蒙古軍は暴風雨に襲われて全軍がほぼ壊滅したことから、「神風が吹いた」ともいわれています。
日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る (ブルーバックス) | 播田安弘 | 工学 | Kindleストア | Amazon

歴史の授業でもさらっとしか学んだ記憶はない。
ざっくりと引用部のように「神風が吹いて勝ったんじゃなかったっけ?」くらいのイメージしかなかったが、そもそもこの辺りの考え方は時代によって変遷したのだという。

元寇が記載された『八幡愚童訓』
こちらには、寺社のプロパガンダの色合いが濃く武者の働きではなく「八幡さまのご加護により勝った」→神に守られている国だ、と言うイメージ作りに一役買った。
この流れが第二次大戦の「神風」と言う呼称にも利用され、つながる。
 
他にも学者らによる「台風説」や「威力偵察説」など蒙古撤退の理由に関する仮説はさまざまあったらしいが、どれも否定されている、と言うのが現状なのだそう。

高麗の史書『高麗史』によれば、

元は高麗に対して、6ヵ月以内に大型軍船300隻、小型上陸艇300隻、水汲み艇300隻を建造するよう厳命し、さらには大工や人夫として3万人以上を徴発させました
日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る (ブルーバックス) | 播田安弘 | 工学 | Kindleストア | Amazon

とあったらしい。
 
しかし、実際、300隻の軍船を生産するにはどの程度かかるのだろうか?
船舶設計者である播田安弘氏は当時の状況からこの軍船建造計画にかかるコストを計算していく。
ここからがすごい。

一隻あたりに必要な木材の量、それを採取する面積、必要な職人や人夫の数。
これらを計算し、さらに当時の軍船を設計復元していく過程がひたすら描かれる。
蒙古の陣容を想定し、さらに過去の文献や博多湾の水深を考え、実際の上陸ルートを検討。
実際にかかる数字を出し、現実的に可能か、可能でないなら果たしてどうであったかを検証していく。
 
時間が経ち、伝聞であれば実際の状況と異なるのは当然。
「蒙古軍は◯◯ほどの軍勢でした」「蒙古軍は◯◯から攻めてきました」
こういった記載を鵜呑みにせず、一つ一つ丹念に検証していかないと当時の真実が見えない、と言う姿勢には頭が下がる。
 
 

真実のコスト

こうした作業を通して、史書、古文献の数字はこれまで検証されたことがないのか、という思いを強くしました。ピラミッド内部の構造を素粒子で画像観測する時代です。古文献の読み解きにも物理的な検証を加えたらもっと別の姿が現れるのではないでしょうか。
史料に科学の光を当てると通説と違う“歴史”が現れる | 船舶設計技術者 播田安弘氏に聞く | 話題の本 著者に聞く | 週刊東洋経済プラス

「ゴースト・オブ・ツシマ」のオープニング。

小茂田浜に押し寄せる蒙古軍と対峙する対馬の武者たち。
名乗りをあげる侍を一刀の元に斬り伏せ、火をかけるもうこの大将コトゥン・ハーン。
実際的な戦いをする蒙古と誉ある戦いをする武者との違いが描かれるシーンですが、実際の侍もあのような誉プレイ*1だったのか、と。

かくて対馬は蹂躙され、博多湾へと押し寄せた蒙古の軍勢は次々と攻め上っていく。
だが有利だった蒙古も吹き付ける暴風に撤退せざるを得ない状況に陥る。
が、その「神風」とはいったい何だったのだろう?
 
真実や真相は安易に転がっているものではなく、それに見合うだけの時間や労力や思考といった対価を支払って初めて得られる、のがよくわかる。
「ネットde真実」と揶揄されるのは正しい。
そこらへんに転がっている有象無象の情報の大半は「真実」を名乗る偽物でしかない。

歴史の真実を探るためには、果たしてどれだけの労力を支払わなければ検証できないのか。
ひとまず、現在得られる情報、推論から考えられる「真実」は果たして。
その必要コストを知るためだけでも是非一読して欲しい。
この本にかけた労力と印税額が見合っているかどうかはわからないが、とりあえず一冊分貢いでみた。
 
2020年、一読に値する一冊。
 
特にツシマの「冥人奇譚*2」をまだやっている今だから余計に面白い。
先日、放送された「世界ふしぎ発見」ツシマ特集で盛り上がった人には是非一読をとお薦めしたい。
 
ちなみに蒙古の「てつはう」は4〜5kgだったそうで。
蒙古は発射機を使ってたそうですが、あれをガンガン素手で投げまくる冥人しゅごい...。

*1:ゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」で名乗りを上げ敵を呼び寄せ堂々と戦うのが誉プレイ。暗殺などは”誉おじさん”こと志村殿に誉めてもらえない

*2:ゴースト・オブ・ツシマのオンラインマルチプレイモード