忠臣蔵がオワコンではなく時代劇そのものがオワコンだという悲しみ

押井守監督が語る映画で学ぶ現代史

anond.hatelabo.jp

忠臣蔵がなぜオワコンになったのか、という分析は山ほどある。300年続いた鉄板コンテンツだったから今の惨状をみんな不思議に思うんだろう。
理由としてよく挙げられるのは、主君への忠義とか仇討ちとかいった考え方が現代日本人になじまなくなったから、歴史研究が進んで吉良上野介を悪役にしづらくなったから、テレビ局が時代劇を作る体力がなくなったから、などなど。でもこれは全部間違った分析だ。なぜなら、日本史に残る二大主君仇討ちのもう一方である本能寺の変中国大返しがまったくオワっていないどころか今でも大人気のコンテンツだからだ。歴史研究が進んで光秀を悪役にしづらくなってもむしろ秀吉黒幕説とか新しい切り口でいくらでも料理されているし、テレビ局がやらなくたって漫画でもゲームでも小説でも何度となく題材にされている。

増田はいろいろな理由を考えているが、結局のところ時代がスライドしていけば昔懐かしいテンプレートが衰退していくのはこれまでの時代の流れ。



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時代の流れ

押井守押井守監督が語る映画で学現代史」に忠臣蔵について語っている部分があったので一部引用してみる。
ヤクザ映画で殴り込みに行く時に少人数がいいという話になって、

押井:(中略)殴り込む側が数が多いとどう撮っていいかわかんなくなるんだよ。実際、「忠臣蔵」の討ち入りシーンはあまり盛り上がらないでしょ。
ーーー 確かにそうですね
押井:大石内蔵助自身はしっかり構えてて、老臣、要するにおじいちゃんがまわりを固めている。結局はせいぜい数人を中心に撮らざるを得ない。忠臣蔵の映画やドラマはずいぶん見たけど、これという決定打がないね。

撮影側からしても登場人物が入り混じるような作品は撮りづらい。
オリエント急行殺人事件的にそれなりの役者を揃えなきゃならない作品というのは予算だってかかるし、当然、撮るのも大変。だから年末年始の特番として放送されてきたんですが、不景気や予算縮小によってその放送枠を低予算バラエティや再放送に喰われてしまった。

ヤクザ映画だってそれまでは着流しの任侠ものだったのに現代ヤクザ者が主流になり、淘汰され消えた。
そんな現代ヤクザ映画すら厳しい時代。
Vシネマですらもう危ないのに。
今勢いあるのは「日本統一」くらいのもんですかね。

壊滅状態

そもそも、時代劇をどれだけ地上波で放送しているのか、と。

まず数えてみればわかりやすい。

・月曜〜金曜 4:00 テレ朝 暴れん坊将軍3
・土曜18:05 NHK 子連れ新兵衛2
・日曜20:00 NHK 麒麟がくる

一週間に山ほどドラマがある中で時代劇はなんとこれだけ。
新作は「麒麟がくる」のみですよ。

BSでは再放送もガッツリやってるが地上波ではすでに壊滅状態。
www.bs-tbs.co.jp
BS-TBSの開局記念ではスペシャルドラマも放送したが、これを地上波でも放送するわけじゃあない。
BSならゴールデンなんですけどね。

忠臣蔵どころじゃなく「時代劇」というジャンル自体がもうヤバいとしか言いようがない。
お正月にはNHKで「ライジン若冲」を放送したり、大河ドラマ三谷幸喜を採用したりするのも、当然ながらこれまで時代劇を見ていなかった視聴者に見てもらおうという努力の現れであって。
www6.nhk.or.jp

失われていく遺産

前述した押井本に時代劇の話も登場する。
曰く、

押井:映画というのはやっぱりある程度「伝統」に支配されてるので、それに乗っかったほうが楽だし洗練される。でもそれだと時代が変わると通用しなくなるんだよ。今、時代劇はほぼ壊滅の危機にあるのもそれが最大の理由。
スタッフもいなくなるし。結髪というカツラの人とか、殺陣師とか、日本刀を作るおじさんだってそれしかやってこなかったんだから。
ーーー 時代劇に必要な技術は消えそうになっています。
押井:そういう膨大な裾野があって成立するのが時代劇

昔であれば太秦みたいな撮影場に技術や人材といったアーカイブが山ほどあるからそれを使いやすい予算で時代劇が撮影できた。
そういう中で徒花のように「必殺仕事人」や「はぐれ牙」「柳生一族の陰謀」みたいな作品も作られた。
でもやがて時代劇は衰退。

高齢化やニーズの減少によって技術が失われ、時代劇を撮影にするのに手間も予算もかかるようになってくれば簡単に撮れる現代劇にしようという話になる。
なにせマゲを結ってドラマを撮ってもそれで視聴率が取れないなら意味がない。

忠臣蔵どころじゃない。
だからたまのスペシャルとか、劇場映画とか、それなりに予算がかけられる、回収の見込みがある主演を支える環境でなければ時代劇はなかなか撮影すらされない。

game.watch.impress.co.jp
太秦エヴァや鬼滅に乗っかって集客しようとしてますがなかなか厳しい。

たまにやる時代劇といえば相棒ファンが見る水谷豊主演の「無用庵隠居修行」とか、東山主演のジャニーズ絡み「必殺」なんかの時代劇。
松岡主演の「東山の金さん」は結構良かったですけどね。
昔っぽい顔なので髷が似合う。

とはいえ今や殺陣がドラマの見どころにはなり得ないんですよ。
それは必殺仕事人の時点で西部劇を取り入れたり、エキセントリックな殺し方をしていたあの頃からわかっていたマンネリ化。
魅せるような殺陣をできる人はもういないですからね。

殺陣が見どころにならない。
だから「御宿かわせみ」とか「鬼平犯科帳」みたいに原作ありき、ストーリーで見せるような作品が定番化した。
しかしそれによって時代劇の「抑圧された町民の怒りを代弁してくれるヒーローが悪をさばく」というカタルシスが失われた。

なにせ殺してしまえば解決、といえてしまうほど世の中はシンプルではなくなってしまった。
鬼滅〜だって「鬼だって悪人じゃなかったんだ」「鬼のために泣く炭治郎の優しさ」ばかり言われる現代で、懐古趣味以外にどうやって殺陣メインの時代劇が撮られるのか。
衰退するのも当然と言わざるを得ない。

....まだ語りたりませんが長くなるのでこんなもので。