今年進学した高校の入学式が三回あったことを、選ばれなかった一日があることをわたしだけが憶えている。そんな壊れたレコードみたいに『今日』を繰り返す世界で……。
「相沢綾香さんっていうんだ。私、稲葉未散。よろしくね」
そう言って彼女は次の日も友達でいてくれた。生まれて初めての関係と、少しづつ縮まっていく距離に戸惑いつつも、静かに変化していく気持ち……。
「ねえ、今どんな気持ち?」
「ドキドキしてる」
抑えきれない感情に気づいてしまった頃、とある出来事が起きて――。
恋も友情も知らなかった、そんなわたしと彼女の不器用な想いにまつわる、すこしフシギな物語。
百合 meets タイムループSF。
西澤保彦、SFミステリ期の作品に「七回死んだ男」というのがあって。
主人公は、時折、9回繰り返す日に出くわす体質を持っている。
繰り返しにハマると行為は上書きされ、最後の一日が採用される。
繰り返しが発生したその日、祖父が殺害。
主人公は殺人を食い止めようとするも毎回失敗に終わるが。。。と言った話。
今作の主人公、相沢綾香の場合はさらに重症で毎日が何度も繰り返され続ける体質。
繰り返しは平均五回。
だから高校生の相沢綾香は五倍以上の体感時間を過ごしている。
現実世界では女子高校生、しかし精神はすでに80年以上。
採用されるのはその中のどれか一日、ランダムに決まる。
ただし、いいことのあった日が採用されず、悪い日があった日が採用されやすい傾向。
精神的にも成長し切った相沢綾香が孤独な高校生活を送ろうとしていたそのとき、稲葉未散と巡り会う。
個人的嗜好で、百合でも恋愛でも、小説で読みたい派ではないので、この辺はちょっとつらい。
とりあえず流して読んでいく。
相沢綾香は繰り返し体質のせいで両親からも距離を置き、独り離れで暮らしている。
唯一、話せる相手は従姉の優花だけ。
そんな優花がある時交通事故に。
綾香は繰り返しを使い、事故を未然に防ぐ。
繰り返される死
繰り返し系の定番というとやはり人の死。
映画「ファイナル・デスティネーション」の如く、世界は避けられた死を修正しようともがき襲いかかってくる。
近年で言えば「Re:ゼロから始める異世界生活」もあるか。
百合要素も強いので「魔法少女まどかマギカ」の鹿目まどかと暁美ほむらの関係性も連想させる。
同じ百合でも、百合が行ききって斜め方向にグロテスクに歪んでスケーリングが極大化していくと草野原々「最後にして最初のアイドル」になっていく訳だが、今作ではきちんとその辺収斂させていくので非常にお行儀がいい。
今作で面白いのがやはり「繰り返す毎日のうち、選択されるのがランダム」というところかもしれない。
前述した「七回死んだ男」であれば最終日が確定日としてその日に行ったことが現実世界として採用される、それ以外はリハーサル。
しかし今作の場合はランダムなので初日に行われたことが採用されたりもする。
すると何度繰り返されようが繰り返しに意味がない。
つまり繰り返しを行っている間、その修正を行っている繰り返しが採用されるかされないかわからず、結局、ループを抜けた翌日にならないとわからない運次第。
例えば
死/生/死/死/死/生
だったとして「七回死んだ男」なら最終日が採用されるので「生」となりコントロールが効く。
だが今作はランダム、4/6で「死」2/6で「生」
なかなかハードな世界観に仕上がってるし運命の支配率が高い。
今作の評価は、単純にループSFというだけではなく、百合小説というジャンルへの慣れもあると思うのでその辺は人を選ぶかもしれない。
逆に普段SFは読まないが百合は読むという人に向いているかもしれない。
最近、日本SF界は中国と百合に傾倒しつつあるので今のトレンドど真ん中。
タイムループの使い方が非常に上手い。
今作の世界観でいえば「世界はいつも繰り返されていて、皆、忘れているが自分だけは忘れない」メタ超記憶力とでもいえばいいのかも知れない。
繰り返すのだから思い通りになるかと思いきや思い通りにならないからこそ歯痒い。
運命を変えるためにひたすら繰り返し続けるなんて、死にまくって繰り返して学ぶフロムソフトウェアのゲーム精神にも似てるかも知れない。
楽しいことも辛いことも、繰り返す毎日も、忘れられない体質で人生ハードモード。
終盤、追い込み方は、なかなか。
もっと追い込んでも面白かったか。
ただオジサンが読むには百合要素が強い気がしなくもない。
しかも、もう続編の発売日まで決まってるんですけど、タイムループで今作以上に試練があるんだろうか。
ちょっと気になる。

- 作者:宇佐楢春
- 発売日: 2021/04/14
- メディア: 文庫